第14話 悪夢。
変な夢を見た。
昨日、寝る直前までティアと話していたからだろうか。
目の前には、今より少し大人びたカルアとミミルがいる。
2人とも愛おしげに俺を見つめている。
ミミルはお腹が大きく、妊娠しているらしい。
カルアは小さな女の子を抱いている。
その女の子の顔を覗くと。
目と口が真っ黒な穴になっていて。
その眼球のない瞼をひらいて、こちらを見るのだ。
「たすけて。おとうさん」
俺は目覚めた。
なんて夢なんだ。
予知夢?
怖すぎるんだが。
どういうことか。
何を暗示しているんだ。
全く分からない。
ティアに連絡をしてみる。
だけれど、いつまで待っても反応がなかった。
でも、夢は夢だ。
それよりも、俺には困難な現実が立ちはだかっている。
まずはそのことを考えねば。
2人は。
カルアは既に起きていて、ミミルは足を開いて逆さまになって寝ている。
子供みたいな寝相だな。
やがて、ミミルも起き出した。
もう昼過ぎのようだ。
今日は、街の中を散策する予定だ。
昨日の夢のインパクトが強すぎて、頭から離れない。カルアに何かあるのだらうか。できれば、周りを用心して見守りたい。
心配なので、ミミルに言った。
『今日はお前の目を借りたいんだが、いいか?』
ミミルは快く了解してくれたが、トイレにはついてくるなと釘を刺された。
安心しろ。
俺は、たぶん。そっちの趣味はない。
久しぶりに第三者視点でカルアを見る。
やっぱり、可愛い。
いや、正直なところ。
俺が人生で見た中で、一番好みだ。
もし、日本にいたら、俺なんかには決して手が届かないレベルの女性だ。まぁ、今でも箱の中だから、手は届かないのだが。
カルアの顔色は……。
特に問題はなさそうだ。気にしすぎかな。
街の中を一巡する。
外周は2、3キロだろうか。外壁に囲まれた要塞のような造りで、1時間ほどで回ることができた。
海はないが、温泉が有名らしい。
また、各国に囲まれているため、地理上、交通の要所になっていて、主に貿易で経済が成り立っているということだった。
街並みについては、明るい時間帯でも、昨日受けた印象と大きな違いはなかった。買い物時なのか、そこここから、胃を刺激する良い匂いがして、無数の露店は賑わっている。
露店では様々な装飾品や果物、食品が売られていた。全てを見たわけではないが、文明のレベルは、やはり俺が元いた世界、特に中世ヨーロッパのイメージに近い。
ただ、違うのはあの首輪。
使用人が時々つけているあの首輪だ。カルアがいうには奴隷の証ということだった。この世界では奴隷が容認されているらしい。
獣人への優しさとのアンバランスだと思った。これでは、差別のターゲットが獣人から奴隷に移っているだけではないか。
俺がカルア達の集落で感動した精神性の高さは、ここにはあまり無い気がした。
生活が俺がいた世界に近づくほど、『生きること』が霞んで、精神性が低くなるのだろうか。
俺がそんなことを考えていると。
突然、カルアが誰かに突き飛ばされた。不意な衝撃にカルアは地面に両膝をつく。
カルアを突き飛ばしたそいつは、一瞬、こちらを振り返ると、そのまま走り去った。
誰かに追いかけられているのだろうか。必死な顔をしていた。
ミミルがカルアに駆け寄る。
「カルアちゃん。大丈夫? 怪我はない?」
カルアはすぐに立ち上がったが、石畳に押し付けられた膝からは血が出ている。
太もものあたりをパンパンと払い、カルアは口を開く。
「大丈夫。あっ。お財布が……。みんなにもらったお財布がなくなってる!!」
さっきのヤツだ。あいつに
人混みの中を縫う様に走り追いかける。
ミミルが「その人を捕まえてください」と叫ぶ。しかし、みんな振り向きはするが、自分に危害が及ばないことが分かると、また歩き出す。
ミミルは、人混みに溶け込まれる寸前にスリに追いつき、
すると、スリの袖が引っ張られポンチョのような
金髪だった。
そして、首には、奴隷の首輪。
一瞬、こちらを振り向いたその顔は。
薄汚れてはいたが、女性のように見えた。
えっ、女?
ミミルも驚いたのだろう。
びっくりして、思わず足を止める。
すると、スリはポンチョを拾い、スルスルと人混みに溶け込む。また追いかけたが、そのまま逃げられてしまった。
肩を落として、トボトボと帰る。
ミミルがカルアに言った。
「ごめん。逃げられちゃった。大切なものなのにごめん」
カルアはただ微笑んだ。
不幸中の幸いなのは、カルアがお金の一部をミミルに預けていたことだ。そのため、差し当たり、今日、明日の路銀に困ることはないらしい。
2人はあてもなく、しばらくのあいだ歩いた。
……気づけば、辺りが暗くなっている。
こういう時は酒だろう。
俺が社会人生活で身につけた宴会芸を披露してやろうではないか。
さぁ、気分を変えて酒場にいこうか。
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