第13話 街。

 

 あれはジークの街だ。


 誰からともなく駆け出す。

 小高くなった街の入口までたどり着くと、カルアは両膝に手をついて呼吸を整えた。


 後ろを振り向く。


 すると、俺たちの足跡が続く先からは、既にオレンジ色の灯りは消え、夜空は、星たちが煌めく暗幕のようだった。

 


 ミミルが門番に話しかける。

 相手は無精髭の屈強そうな男だ。


 俺は固唾を飲んで、その様子を見守る。


 俺が見てきたファンタジーものでは、大概、獣人は不遇な扱いを受けている。そして、ほとんどの場合、怪訝な顔をされて追い払われるのだ。


 だから身構えていたのだが、意外にも門番はにこやかで、すぐに入れてもらえた。


 すると、カルアが教えてくれる。


 人族の中では、獣人に対する差別は根強いらしい。だが、ここジークがあるサースという国は、王妃が獣人らしく、だいたいの人は獣人に優しいということだった。


 彼女は続ける。


 「だけれど、まだ中には人族至上主義の人も少なからずいるの。だから、わたしたちは、街中では耳を隠して行動するんだ」


 そういと、カルアは帽子を深く被った。


 たしかに、こうしていれば、ただの可愛い女の子にしか見えない。だが、『ただの美少女』二人組も、それなりに危ないと思うのだが。俺の気のせいだろうか。


 詰所で簡単な手続きをすると、中に入れてもらえた。


 俺たちが初めてだと知ると、門番が簡単に案内してくれる。まずは、宿を確保して、酒場に行くといいとのことだった。


 教えてもらった宿屋に向かう。


 カルアの目を通して見える街並みは、石敷きの通路に重厚な石造りの建物が立ち並び、どこかのヨーロッパの国のようだった。


 松明の明かりの揺らぎが、石積みに陰影をつくる。その中を、様々な服装の商人のようなの人々がひっきりなしに往来している。ここは、貿易が盛んな街であるようだった。


 宿屋についた。

 宿屋は木造二階建の簡素な作りで、いかにも安宿という雰囲気だ。


 恰幅かっぷくのいい女主人が受付をしてくれる。代金は2人で6,000ルミアということだった。


 高いのか安いのかよく分からないが、地方のビジネスホテルのツインで6,000円とすれば、そんなもんかなとも思う。ということは、大体、ルミアと円は等価くらいなのだろう。


 集落で旅の資金を準備してくれたらしく、カルアは布袋から大切そうにお金を出して、女主人に渡した。



 案内された部屋に入り、荷物を投げ出す。

 酒場に行くと良いということだったが、2人とも疲れたのだろう。ベッドに横になると、そのまま寝てしまった。


 俺はしばらくぼーっとしていたが、分からないことがあって、少しティアと話すことにした。


 「なぁ、ティア。スキルポイントの割振りなんだけどさ。この憑依ってなんだ? 何の説明もないし、やたら大量のポイントを要求されるんだが」


 今日のティアは機嫌がいいらしい。

 普通に答えてくれる。


 「はぁ? そんなの自分で考えなさいよ。そーいうの私達は教えちゃいけないことになってるの」


 まぁ、機嫌がいいと言ってもこの程度なのだが。


 「いや。考えようにも、ノーヒントは無理だろ」


 「チッ……。それは、あなたの世界でいう降霊術よ。霊媒体質の依り代よりしろがいれば、あなたが乗り移れるの」


 え。

 俺、すでに最高レベルだぞ?

 箱から出れたら多分、無双できちゃうんだが。


 いいの?



 ティアは続ける。


 「ただし、その間、本物の貴方は死ぬの。つまり、酸素が脳に行き渡らなくなるわけ」

 

 「それって……」


 「短時間でも確実に寿命を削るし、長くなれば、障害が残るかな。そして、それ以上になると、運が悪ければホントに死ぬの♪」


 そんな重要事項を、サラリと楽しげに言われても困るんだが。


 でも、まぁ。

 その間は、少なくとも俺が自由に動けるってことだろ。


 この前のドラゴンの時みたいになると困るからな。念のためにとっておくか。


 スキル効果は、本体の力や依り代との相性が反映されるらしい。全スキルポイントを使ってしまったが、仕方ない。


 すると、またティアの声が聞こえてくる。


 「あっ、そうそう。それ。既に強い守護霊が憑いている人には使えないよ。たとえば、先祖の英霊に護られている、あなたの連れの2人とかね」


 まじか。

 もう取得しちゃったんですけれど。


 取り消しボタンを押すが反応がない。


 ただ一言。

 それは事務的に表示された。



 『このスキルは一度取得すると取り消してきません』

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