第7話 誰がために。

 

 視覚の共有について、いくつか分かったことがある。


 まず、人間の脳は他人が見たものを、うまく処理できるようには作られていないらしい。

 脳にかなりの負荷がかかり、長時間やると頭痛と吐き気がする。


 理屈としては、数人のイメージを同時に把握したりも可能そうだが、やりすぎたらパーになりそうだ。


 そして、相手が望まない映像は見れないらしい。

 さっき、カルアがトイレに行くというので、心待ちにしてワクワクしてたんだが、肝心なところで画像が切れた。


 ……残念。



 まぁ、でも。

 これで俺もある程度、戦闘に参加できる。

 助かる。




 それにしても、カルアの凛々しい表情。

 目に焼き付いてしまった。


 彼女たちは、死が身近なこの世界で、どのように生きてきたのだろうか。


 どんな想いで試練に挑むのだろうか。


 俺がいたのは……。


 安全だけれど、悪意に満ちた世界。

 命だけは守られていたが、『誇り』や『想い』を皆で盗みあっていた。

 だから、皆、それを守るのに必死で、何重にも心を守らないといけなくて。


 そのうち、視界がぼやけてくるのだ。

 自分がどこへ向かうべきか分からなくなってしまう。


 少なくても、俺は分からなかった。

 必死にやっていたけれど、自分どこへ行くべきか分からなかった。


 きっと、彼女には、自分が向かう先が見えている。だから、カルアの表情が、眩しく見えるのだろう。


 

 

 カルアの嬉しい気持ちが俺に流れ込んでくる。

 俺が試練に行くのをカルアはすごく喜んでくれて、ミミルにも報告することになった。


 ミミルの部屋をノックする。

 少しして、ミミルが出てきた。


 ミミルはカルアによく似ているが、目は切れ長の奥二重で、髪型は銀髪のショートだった。これはこれで、カルアと少し雰囲気が違うが、かなりの美少女だ。


 もし、キャバクラに行って、カルアかミミルどちらか1人しか指名できないとしたら、たぶん、俺は決められないと思う。ミミルもそれくらい可愛い。



 あ、よく考えたら。

 一昨日の夜中の喘ぎ声と匂いは、この可愛い子のだったってことか。


 ちょっと興奮してきたかも。

 種の壁とか、全然いけそうな気がする。



 なので、カルアに聞いてみた。

 

 『なぁ、カルア。もし、人族とそういうことしたら、赤ちゃんできるのか?』


 すると、カルアはクスッと笑う。

 あぁ、アホ女神と違って優しいんですけれど?

 なにこの違い。


 『つばきくんの質問。へんなのっ。うん、出来るよ。血が遠い分、可愛くて優秀な赤ちゃんができるらしい。もしかして、つばきくん。赤ちゃん欲しいの?』


 ちょっと答えに困ってしまった。

 カルアは続ける。


 『そうだなぁ。もし、生きて試練から帰れたら……。いいよ。つばきくんの赤ちゃん産んであげても。……なんてね?』


 カルアはクスクスと笑う。

 俺は年下少女にからかわれたみたいだ。


 まぁ、本気だとしても。

 箱から出れない限り、どうせ無理だしな。


 でも……。

 試練クリアのモチベーションはかなり上がった。



 目の前では、ミミルが不思議そうな顔をしている。パーティー外の人には何も聞こえないようだ。


 カルアが口を開いた。


 「ミミルちゃん。ツバキくんも一緒に行ってくれるって!! よかったね。ミミルちゃんも嬉しいでしょ?』


 すると、ミミルは怪訝そうな顔をした。


 「つばき……『くん』?」


 ミミルは続ける。


 「ん。私は反対だな。つばきさんは行かない方がいいと思う」


 えっ。


 昨日はミミルも、俺が行くことに賛成してくれてなかったっけ?

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