第6話 女神ティア
あれからカルアが優しい。
昨日は座布団の上だったが、今日は、カルアの胸に抱きしめられている。
俺が男だという警戒心は全くないようだ。
箱が故の役得だと思う。
だが、実際には触覚も嗅覚もある。
おれはカルアの胸の感触を満喫していた。
温かくて柔らかい。
いい匂いがする。
カルアの顔がみたい!!
これは男なら、誰もが持つ願望だと思う。
しかし。怖くもある。
もし、二足歩行ネコ説が証明されたとしても、俺は昨日までのオレでいられるのだろうか。
だが、2人の夜のひとり遊びを鑑賞する時の心構えも変わってくる。
やはり、知っておきたい。
そこで、おれは女神呼び出しボタンを連打した。
200回くらい連打した頃に反応があった。
女神は、とてつもなく気怠そうな声をしている。
「なに? ……わたし、あなたの相手してるほど暇じゃないんだけど」
こいつ、ほんとに。
全部、お前がここに俺を放り込んだせいだろう。いつかどうにかお仕置きしたい。
「あのさ、視覚は諦めたから、せめてミミルとカルアの顔みせてくれないか?」
「は? あんた、それ。全然、視覚を諦めてないじゃない」
おれは食いさがる。
これは、おれにとって最重要事項なんだ。
「いや、写真だけでもいいんだ」
「……。ったく。パーティー申請したら? そしたら、相手の顔くらい分かるんじゃない?」
え。そなの?
パーティーって、転生者にしかできないのかと思ってたよ。
なんだか妙にゲーム臭いんだよな。
この世界。
まぁ、いいや。
こいつの用は済んだ。
あっ、そうだ。
今後のお仕置きのために聞いておこう。
「おまえ、名前なんつーの?」
「……チッ」
は?
いま、こいつ舌打ちしなかったか?
こいつとの会話時間に比例して、俺の中の女神のイメージがどんどん低下していくんだが。
女神は続けた。
「ティアよ」
ティア? 意外に可愛い名前だな。
完全に名前負けだろ。
このくされ女神には、いずれお仕置きするとして。その時のために、これを確認しておかねばならない。
「ティア。おまえさ。俺とエッチしたら、妊娠するの?」
ブツッ。
(通話が切れる音)
コイツ。一方的に通話切りやがった。
なんだか、クズにクズと言われたようで妙に腹が立つのだが。
まぁ、いいや。
さっそくカルアにパーティー申請してみた。
カルアは不思議そうな声を出す。
「あれ。ツバキさん。あなたからパーティー申請きたのだけれど……。まぁ、いっか」
カルアは承認してくれた。
どれどれ。
俺は必死に、パーティーメンバーのステータス画面を探した。
あれ。
転生者とパーティーしたときは、普通のRPGみたいに操作できたのだけれど。
そういうのないよ。
もしかして、この世界の住人が相手だと、ゲームライクな操作方法じゃないのか?
んー。
おれは、目を閉じて腕を組んだ。
すると。
なんだろう。初めての感覚だった。
カルアをイメージすると、彼女の存在を身近に感じる。そして、感覚的に、彼女の疲れなどのコンディションが俺に流れ込んでくるのだった。
不思議な感覚だ。
きっと、テレパシーってこんな感覚なのだろうか。
そして、心配な気持ちも。
彼女の心細い気持ちも、俺に流れ込んでくる気がした。
思った以上だった。
こんなに心細かったのか。
ほんと、偉いな。この子。
箱の中じゃなかったら、頭をナデナデしてあげたい。
テレパシー?
なら、もしかして……。
俺は念じてみる。
『カルアさんですか? 前回の1人エッチはいつですか?』
すると、カルアの声が聞こえてきた。
「一昨日……。って、この声って、つばきさん?」
『あぁ。俺だ。ツバキだ』
すると、なんだか土の上に置かれた気がした。
ザッザッ。
ザッ。
まさか、お前も俺を埋めようとしている?
やばい。遺棄はやめて。
『ちょ、埋めないで……』
すると、カルアは怒り声になった。
「いま、あなたは何も聞いていない!! いいですね?」
『……はい』
この瞬間、俺とカルアの上下関係が決定された気がした。
あれ。
これって。これって。
カルアが見ているイメージが俺にも伝わってくるぞ。
そこから見える景観は圧巻だった。
そこは高台で。
果てしなく続く地平線。
翡翠のように美しい湖。
ブルーサファイアのように煌めく空。
胸をすくような、緑の息吹。
生への感謝と悦びに溢れた鳥たちの鳴き声。
海外旅行にすら行ったことない俺にとっては。
どれも刺激的で。
この景色を見るために転生したのではないかと思えるほど、美しかった。
『……』
おれは言葉が続かなかった。
すると、カルアが俺を覗き込む。
『ツバキさ……、ううん。ツバキくん。どうしたの?』
『いや、あまりに美しくてさ』
俺は続けた。
『なぁ、カルア。手鏡持ってないか?』
カルアは、可笑しそうな声になる。
『あるよ? へんなツバキくん』
そして、カルアの視界に手鏡が入る。
鏡を覗き込む少女の顔は……。
真っ青な瞳。
ぱっちり二重で長いまつ毛。
丸くて女性らしい輪郭。
つやつやしていて、小ぶりな唇。
真っ青な瞳と対照的な小麦色の肌。
頬には指で引いたような赤いペイントが3本入り、髪は銀髪で肩にかかっている。その中には猫のような耳が顔を覗かせていた。
そして、その表情は。
一生懸命に毎日を生きている誇りに満ちていて、とても眩しかった。
びっくりした。
おれの楽観的イメージを遥かに上回っていた。
ちょっと困る。
直視したら、好きになってしまいそうだ。
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