第5話 試練

 

 ミミルとカルアの話から、試練のおおよそが分かった。試練は、猫耳族の族長家の者が成人すると課されるものらしい。


 この世界の成人は早く、2人とも16歳ということだ。


 その内容は、亡くなった人の魂が集まるという北の大地までいき、そこでご先祖様に、当主を引き継ぐことのお伺いをたてる、というものらしい。


 道中には、山あり谷ありの過酷な環境、モンスターが跋扈ばっこする危険な大地を抜ける必要があり、特に試練を受ける者が女子の場合には、ほとんどが失敗して亡くなってしまうとのことだった。


 本当なら、途中まで父親がサポートするものらしいが、ミミルとカルアは族長の祖父と住んでいるようだった。もしかしたら、両親はいないのかも知れない。


 だから、試練にはコイツら2人だけで行くらしい。


 思った以上にヘビーな試練だ。


 こいつらについて行ったら、俺はほぼ確実に、巻き添えで死ぬか、そんな過酷な土地に放置になるということだ。



 俺は、楽をしたいから箱に入ってるんだぞ?

 前世であそこまで必死にやったんだ。もう十分だろう。


 なので、俺は決心した。

 タイピングにより自己主張ができるようになった今、おれはNOと言える男だ。

 


 カルアとミミルに「NO」とビシッと伝えた。

 


 すると、2人は申し訳なさそうな声になる。

 

 「うん。ツバキさんには関係ないことだもん。なんだかごめんね」


 こんな得体の知れない箱の話もキチンと聞いてくれる。転生者のアホどもと違って、優しい奴らだ。


 試練は明日からと言うことなので、今夜はカルアの部屋に連れて行ってもらう。ミミルとカルアは双子でカルアが姉らしい。


 カルアは、俺を乱暴に鷲掴みするようなことはなく、きちんと座布団みたいなのに乗せて移動させてくれる。


 ますます優しい子だ。



 夜も更けた頃。

 くぐもった声が聞こえてきた。


 さすが姉妹。

 夜のひとり遊び。姉もお盛んだな……。



 俺はドキドキしながら、聞き耳をたてる。



 すると、思った声と少し違った。

 枕に顔を押し付けているんだろうか。


 声が聞き取りづらい。


 「グスっ……、グス」


 「ママぁ、パパ怖いよ。でも……、わたしはお姉さんだから。我慢しないと」


 「グスっ…ミミルだけは絶対に守るんだ」


 ……。


 俺は16歳の頃、どうしていただろう。


 ツバサが死んで、ただただ自分を卑下して責めていた。

 弟が何をしたかったのか、何をやり残したのか、なんて考える余裕はなくて、現実逃避のために、ずっと勉強をしていた。


 弟が死んだのに。


 あんな安全な国にいたのに俺は、自分のことしか考えてなかった。



 カルアは違う。

 試練の話しからすると、きっと、この国では死が身近なのだろう。


 自分も死ぬかも知れないのに、盾になって妹を守ろうとしている。


 

 はぁ……。



 ——「ダメだよ。にいさん!! 困ってる人は助けないと」


 

 ツバサ。きっと、お前なら。

 迷うことなく助けるんだろうな。



 ……わかったよ。

 


 そして、おれはカルアへのメッセージをタイピングしている。



 今度はちゃんと一緒に行こう。

 弟の時の様に、置いてきぼりで後悔するのは、もう沢山だ。


 

 次の日の朝。

 箱を見て、カルアは少しだけ安心したような顔をした。カルアは、箱に書いてあるメッセージを読み上げる。



 「ツバキも一緒に行く。だから安心して」


 


 

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