第4話 夢。


 チュンチュン……。


 (雀の鳴き声)



 「にいさん!!」


 つばさ……。

 あぁ、そうか。これは夢か。


 俺には、中学の頃まで双子の弟がいた。

 弟は優秀を絵に描いたようなタイプで、皆に好かれていた。


 優秀を鼻にかけて嫌われ者だった俺とは大違いだ。


 まぁ、そもそも、俺は中学のとき、つばさが亡くなるまで、勉強らしい勉強すらしなかったのだが。


 つばさは、俺の掛け布団を引っ張って言う。


 「にいさん!! 早くしないと。今日はボランティアの日でしょ?」


 当時うざったかったこの手の誘いも、聞けなくなった今となっては、心地がいい。


 このとき俺はたしか、こう答えたはずだ。


 「……だりぃ。お前ひとりで行けよ」


 「ダメだよ。にいさん!! 困ってる人は助けないと」


 「俺は寝たいんだから、いいんだよ……」



 そして、これが弟との最後の会話になった。


 優秀な弟は死んで、こんな兄が生き残った。



 

 チュンチュン……。

 (雀の鳴き声)



 目が覚める。

 ここは、いつもの箱の中だ。


 なんで、こんな夢を見たのだろう。

 今更だろ。いまさら。


 だって、俺は死んだんだ。

 お前から引き継いだことを何も成せないまま……。



 目の周りがしみて痛い。

 俺は泣いていたんだろうか。


 鏡がないから分からないや。





 箱の外がバタバタしている。

 ミミルが朝の準備をしているらしい。


 そうそう。昨日の視覚よこせ騒動の後、箱の中にキーボードらしきものがあることに気づいた。


 どうやら、これで外界との意思の疎通がはかれそうだ。


 おれは早速ためしてみる。

 幸い、ここには俺とミミルだけだ。


 カタカタ(タイピング音)


 「コンニチワ」


 すると、ミミルの声がした。


 「あれぇ? 箱に何か書いてあるぞっ? こんにちわ? この箱、すっごーい!!」


 よし!

 コミニュケーションできそうだ。


 じゃあ、さっそく本題に。


 「キノウはお楽しみでしたね。でも、ネブソクになるから、そんなに何回もしたら、カラダに良くないですよ? ヒトリアソビは、ほどほどに……」


 さりげない気遣い。

 紳士な箱ジェントルボックスっぷりのアピールだ。



 「なっ……ちょっと」


 すると、ミミルは俺(箱)を抱えて、どこかに走り出した。


 なになに。

 俺をどこかに飾って崇め奉ってくれるのか?



 ザッザッ。


 ?


 ザッ。ザッ。

 (砂をかけるような音)



 は? 

 こいつ俺を埋めようとしてるのか?


 ちょっと!

 まだ俺の冒険はじまったばっかりなんですが……。


 俺は必死に入力する。


 「ワタシは、伝説級の魔道具だ。サイキョウになりたければ、わたしを捨ててはならない」


 ザ。

 ……音がとまった。


 ミミルに両手で持ち上げられているらしい(触覚)。


 「ねぇ。箱さん。あなた、気持ちはあるの? お名前は?」


 ここでうまく言いくるめられなければ、おれは地中行きになるかもしれない。変なこと言わないようにしなければ。


 「ワタシはツバキ。お前の旅の友だ」


 すると、ミミルはまたどこかに走り出す。


 「ねぇ。カルアちゃん!! この箱、話せるみたい。箱の周りに文字がでるのっ!!」


 カルアも感心している様子だ。


 「カルアちゃん。この子も試練に連れて行かない?」


 カルアが悩んでいるような声を出す。


 「んー。でも、わたし達、たぶん死んじゃうよ? そしたら、箱さん動けないし」

 

 ん。

 なんだか、話が変な方向にいっているぞ。


 俺としてはここに残してもらって、一向に構わんのだが。ってか、知り合ったばかりのコイツらのために、命懸けの試練になんて、行きたくないんですけれど?

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