第3話 なかま。


 俺は、在らん限りの補助魔法をかけまくり、2人に『役に立つ子』アピールをした。すると、どうやらミミルの方が、魔法に気づいてくれたらしい。


 「カルアちゃん。なんだかこの箱持つと肩凝りが取れるんだけど不思議〜」


 「ミミルちゃん。それ、きっと、古代人の魔道具だよ。高く売れると思うし、拾って帰ろうか」


 必死のアピールが功を奏し、マッサージ魔道具と認定されたらしい。なんか売価がどうとか言っていた気もするが、とりあえず、今のところは、これでいい。


 

 どうやら俺は、ミミルとカルアなる者に拾ってもらえた。



 話を盗み聞き(というか、耳を塞ぐ自由すらないのだが)したところによると、猫耳族という種族の長の娘ということだった。


 2人は冒険者で、ミミルは前衛(剣)、カルアは後衛職(魔法)らしい。



 ちなみに。この2人。

 それなりに可愛らしい声をしているのだが、容姿のイメージがないと、どうもクルものがない。


 なので、勝手にミミルは元気系美少女、カルアは癒し系美人という脳内設定にさせてもらった。



 戦闘でも俺は有効活用されている。


 俺の活用法としては、ミミルが俺を投擲とうてきの要領で投げ、敵に当てるという、まぁ、要は石ころのような使われ方をしている。


 投げられる度に、箱の中はおもちゃ箱をひっくり返したような状態になるが、2人はそれなりに強いらしく、経験値がわんさか入ってくる。


 おかげで俺は、すでにもう最高レベルになったようだ。スキルポイントやらも沢山あるのだが、どれに振ったらいいか分からないので、まだ保留にしている。


 2人は猫耳族の村に住んでいるらしい。

 そして、その事件は、ある夜に起きた。


 おれは魔道具だと思われているので、その日はミミルの部屋に連れて行かれた。そして、ベッドわきの棚に置かれているのだが、1人しかいないハズのミミルの部屋で、何か聞こえてくるのだ。



 ハミングのような、くぐもった女子の声。


 「んっ、んっ……、あっ、あん……」


 女子の1人部屋で喘ぎ声が聞こえるって、あれしかない。そう、きっと、ひとりでなさっているのだ。


 みたい!

 みたいー!!

 みたいよー!!!!


 せっかくベッド脇の特等席にいるのに、見えないなんて残酷すぎる。


 俺はこの世界にきてから、今のこの瞬間ほど外に出たいと思ったことはない。


 なので、先日、箱の端っこに見つけた、女神呼び出しボタンを連打する。



 ……反応がない。

 どうもガン無視されているっぽいな。


 鳴かぬなら、鳴かせてみよう不如帰ほととぎす


 女神が根を上げるまで、このボタンを連打してみせる。1000回くらい押したところで、女神から怠そうな声の返信があった。


 「あんた。いま、何時だと思ってるの? なんなのよ。ほんと」


 「非常事態なんだよ!! いますぐ、外の様子を見れるようにしてくれ」


 数秒の間を置いて、女神が返事をする。


 「あんた、外のアレみたいわけ? ダメに決まってるでしょ。この変態」


 女神の顔は見えなくても、いま、この瞬間。とてつもなく汚物を見るような目で俺を見下していることだけは分かる。


 でも、俺はめげない。


 「じゃあ、他の五感でもいいんで!! やってくれないと、本社に連絡すっぞ!!」


 すると、女神は本当に気だるそうに言った。


 「あー、わかったわかった。じゃあ、視覚以外の嗅覚、触覚、味覚ね。せいぜい有効に使いなさい」


 そういうと通信は一方的に切れる。

 ほんと、あのクソ女神。いつかお仕置きしてやる。


 でも、いまはそんなことよりも、しないといけないことがある。


 ……アホ女神は分かっていない。

 いま、このシチュエーションで視覚と同じくらい有用な感覚。


 それは、嗅覚だ。


 おれは手に入れたばかりの嗅覚を最大出力、フルブーストした。


 くんくん。


 汗と香水が混ざったような甘い匂いがする。

 ひさかたぶりの女の子の匂い。


 ……たまらん。


 しかし、俺はジャージのズボンを下ろしかけて気づいてしまった。


 俺はこの世界に来て、まだ草木一本すら見たことがない。即ち、山が緑か、海が青いのかすらも分からないのだ。


 この世界がどれだけ本物志向かを把握していない。


 

 つまりだ。


 俺の中の猫耳娘のイメージは、人間の可愛い女の子が、猫耳ヘアバンドつけてコスプレしているくらいのイメージなのだが。


 実際には、リアルめす猫が二足歩行して、人の言葉を話しているだけなのかも知れない。


 ……それはさすがに厳しい。


 まだこの程度の禁欲じゃ、俺には種の壁は超えられなそうだ。


 フッ。


 おれは、無言でスッとズボンを上げるのだった。

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