第2話 追放。


 そういう訳で、目覚めたら箱の中にいた。

 広さは6畳くらいだ。


 だが、自分の大きさがわからないので、もしかしたら箱は小さいのかもしれない。

 この世界にきて、いくつかわかったことがある。


 まず、腹が減らない。

 そして、髪や髭は伸びず、多分、歳を取らない。


 性欲はそれなりにある。


 持ち物は、死んだ時に着ていたジャージと、コンビニの買い物袋のみだ。

 唯一の書物がエロ本ってのは……。そこはかとなく絶望感が漂うな。


 どうせなら、もうちょっと時間が潰せそうな本をチョイスすべきだった。


 やることがなくて、とてつもなく暇だ。

 エロ本も読み飽きたし、本気で、女神を連れてくればよかった。

 

 そうそう。

 外の様子は見えないが、外の音や声は聞こえるようだ。

 

 そして、俺は今、レベル1だ。


 レベルにどんな意味があるかわからないが。

 箱の中にいて戦えないので、今後、上がることもないだろう。


 それと。

 時々、女神からうざい通信(一方的)があるのだ。


 ほら。言ったそばからまた来た。


 「ちゃんと冒険してください。やる気のないアナタのために、パーティーに加入させてあげます」


 なんでも、俺と同じ転生者パーティーだから、ありがたく思え、とのことだった。


 いやいや。

 この箱の中にいて、何ができるというのだ。


 どうやらパーティーメンバーが来たらしい。


 女の声が聞こえる。

 

 「ねぇ。メンバーにしてやれって、この箱のことかなー?」


 「あぁ、そうじゃね。とりあえず入れてみるか」


 パーティー申請が来たからOKしてみる。

 

 そして、気づいたことがある。

 どうやら、箱の中にいても経験値は入ってくるらしい。


 そして、この世界には魔法やスキルというものがあるようだ。さすが、異世界。


 そのうち、レベルも上がって補助魔法を覚えたので、まだ顔も知らぬパーティーメンバーにかけてみる。


 体力強化魔法:S

 腕力強化魔法:S

 速度強化魔法:S


 箱の中にいても暇だからな。

 ひたすら術式を研究して、Sまであげた。


 魔法には熟練度のようなものがあり、Sが最高らしい。



 メンバーは快進撃を続けているらしく、俺のレベルも順調に上がる。



 しかし、それはある日、突然に起きた。


 男の声が聞こえる。


 「なぁ、この箱さ。俺らの経験値吸ってるっぽいんだけど」


 ようやく気づいたか。

 愚か者め。



 女が上擦った声で話す。


 「えっ、ほんとーだ」


 ぶりっこ(死語)しやがって。

 こっちは、オブジェみたいな感じで部屋の棚に置かれてたからな。お前らの夜の営みも全部、まるっと聞こえてるんだぞ。


 見てないのは、せめてもの武士の情けだ。


 それにしても、転生までして、そんなにセックスしたいのか? お前らは。


 あー、羨ましい。



 男が気だるそうに言った。


 「コレ戦闘の役にも立たねーし、女神様のお願いだったけど、ここに捨てていっちまおーぜ」

 


 おまえら。

 俺の補助魔法なかったら多分、すぐに死ぬぞ?


 異議申し立てしたくても、こちらからのコミュニケーション手段がない。


 こうして俺はパーティーを追放された。

 


 それから、数ヶ月、数年?


 俺はそこに放置されていた。

 たしかに、引きこもりたいとは言った。だが、これは引きこもりというより、監禁な気がする。


 いくらなんでも暇すぎる。


 あのくそ女神め。

 次にあったら、尻さわってやる。


 そうは言っても。

 箱だし、外の状況はわからない。



 どこに捨てられたんだろう。

 もしかしたら、海の底とか、便器の中だったらどうしよう。


 そんなある日、声がした。


 「ねえ。ミミルちゃん。 ここに変な箱あるんだけれど」


 「ほんとー。カルアちゃん。不思議な箱……」


 これはチャンスだ。

 こいつらが、どんな生き物かわからない。


 だがとりあえず、会話できるだけの知性はあるらしい。



 ここでまた放置されたら、次の生き物との遭遇は何ヶ月後になるかわからんぞ。


 コンコン。

(箱の外殻を叩く音)

 

 「丈夫そうだよ? 軽いし」


 そうだ。俺は丈夫なんだ。

 壊れたら箱から出れてしまう。

 女神がそんなヤワな箱に閉じ込めるわけがない。

 

 そういうことだから……。


 連れて行ってくれ!! 

 頼む!!



 

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