気づいたら箱の中なんだが?
おもち
第1話 箱の中なんだが。
俺は、
いわゆる転生者だ。
だが、どういう訳か、今は箱の中にいる。
なんでこんなことになったか。
思い出しただけでも腹ただしい。
自分で言うのもなんだが、俺の人生は徹底的に頑張った。とりわけ特別な才能を持っていた訳ではない。
だが、ひたすらに勉強をし続け、中高と国内トップの成績で卒業し、最高峰の大学に入った。大学院の卒業後は、国家総合職に合格し、霞ヶ関で働いていた。
しかしだ。
それは、ある晩に起きた。
その日も休日だと言うのに疲れ切り、俺としたことが、ジャージにサンダルでコンビニに買い物に行った。
ビール、惣菜、エナジードリンク(持ち帰り残業用)、エロ本(なんとなく)などなどを買って、コンビニから出た時だ。
職場から電話がきた。
急遽、登庁して、大臣答弁の草案のリーガルチェックをするよう依頼されたのだ。
昨日帰ってきたのは、今日の朝2時だぞ?
そうだよ。日本語の時系列がおかしくなるような勤務体系なのだ。
俺は、今までの不満が爆発した。
怒り狂って、上司に食ってかかった。
その時だ。
突然、現れた暴走トラックに轢かれ……(以下、略)
そんなわけで、気づいたら目の前に女神がいた。この腐れ女神が、「貴方に人生をやり直す機会を与えましょう」だと。
おい、くそ女神。
こっちは、今まで頑張ってきた先行投資を、まだ全く回収できていないんだよ。
転生なぞ、一ミリほどもしたくないんだが。
つか、早く帰らないと大臣の答弁が始まってしまう。
「転生なぞしたくないから、早く元の世界に戻せ」
そういうと女神は言った。
「それはできません。貴方は死んだのです」
そうか。戻れないなら、特に未練はない。
毎日、悔いが残らないように生きてきたからな。
俺は答えた。
「なら、俺の魂を消してくれ。特にやり残したことはない」
すると、女神はため息をつき、やれやれ と言う顔をする。
「せっかくのチャンスなのですよ。剣と冒険の世界で英雄になるチャンスなのです」
どうやら、この女神は壊滅的にコミュニケーション能力が低いらしい。
消えたいヤツに剣と冒険とかどうでもいい。
だが、どうやら、こいつのいうお題をクリアしないと話が進まないらしい。
やるなら徹底的に。
これが俺のモットーだ。
「わかった。なら、さっさと終わらせたいんだが……」
すると、女神はひまわりのような笑顔になって言った。
「ようやくご納得いただけたようでよかったです。早速ですが、ひとつだけ貴方に特別な能力を差し上げます。欲しいものはないですか?」
ひとつね。
こういうの何かで読んだことあるぞ。
お決まりだよな。
俺は女神をつま先から舐め回すように見上げる。
身長は158くらいか。
胸はDくらいで、ウエストはくびれていている。
ヒップはそれなりにボリュームがある。
黒髪で、瞳は黒い。
目は大きな二重、小ぶりでぷるんとした唇。
美形だ。
服は、着物と巫女服を混ぜたような服装をしている。
どことなく、日本っぽい。
アジア圏担当の女神なのかな。
悪くはない。エロ本の代わりくらいにはなりそうだ。
だから俺は言った。
「なら、お前。お前をよこせ。見てくれだけはいいようだし、道具として活用してやる」
すると、女神はジト目で言った。
「ムリムリ。いやです」
おいおい。
こいつは、一緒に行きたくないようなところに俺を送り込もうとしているのか。
じゃあ、まあ、いいや。
こいつアホそうだし。いらん。
だとしたら……。
「じゃあ、思う存分、引きこもれる部屋をくれ。生まれ変わってまで前みたいな生き方したくないんでな」
女神は、またため息をついた。
「……わかりました。そうそう。次の生での達成条件は『魔王の討伐』です」
なんだか、このまま異世界に吹っ飛ばされそうだ。こいつ、俺がうざったくなって、強制フェードアウトさせようとしている気がする。
なので、俺は質問した。
「達成しないと、どうなるんだ?」
「どうもなりませんよ。ずっとそのままというだけです」
「え、むしろ天国なんだが。魔王なんてどうでもいいんで放置してもいいか?」
女神は、またため息をついて、『好きにして』という顔をする。
まじか。よかった。
これからはダラダラして、ぐーたらを取り戻すぞ。
今後のコンセプトは『異世界行ったら、引きこもる』だ。
—————————————
新連載はじめました。
箱からでれずに、色んなトラブルに巻き込まれていくお話です。
面白い、続きが気になると思っていただけましたら、ぜひ、★★★、レビュー、フォロー、コメント等お願いします。
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