第41話 最終章 不動 剣一 復讐の為に自分を捨てる

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〇 不動 剣一 復讐の為に自分を捨てる




俺は母の隠していたロッカーの中にある茶色の書類封筒を手にすると空のロッカーにコインを投入して再び施錠した、他の人に使われる事を避ける為だ


書類を大事に胸元に抱えそっと家に戻ると、琴音や義母に気付かれない様に足音を立てず自分の部屋に戻りそっと扉を締めた



俺は封筒の中身を慎重に取り出すと、数枚のA4用紙が入っていた






俺はその中身を見て、怒りでどうにかなりそうだった・・・







書かれていたのは、本当に酷い内容でこれを記録している時に母は何を思っていたのか・・



母の残したレポートを内容を要約すると


純香さんが転職先の新入社員として外回りしていた時に偶然街であったらしい

その時に一緒に回っていた上司の金森を純香さんに紹介され母さんと金森は面識を持ったようだ


そんなある日、母が買い物で出かけてる所で偶然、金森と鉢合わせした時に純香さんの会社内での態度で困ったことがあるから、姉妹の母さんに相談したいと話を持ち掛けられ、金森と連絡先を交換したらしい


その後、何度か相談の為という事で二人で会って話が出来ないか?待ち合わせで会えないか?と持ち掛けられたが、不安に感じその都度理由をつけ断っていたようだが


ある日の電話口で純香さんの仕出かした大失敗で、会社がとんでも無い事になる可能性が有る!彼女にお姉さんから忠告してくれないと大問題になりますよ!とキツイ口調で押し切られ指定されたホテルのラウンジで会う約束をしてしまった


すると、そこに現れたのは金森ともう一人・・・


奴等は、言葉巧みに話題を濁し母との話を長引かせ出されたコーヒーを母に口にさせた・・


そのあと、意識が朦朧となった母が気付いた時には、金森ともう一人の・・・・・この先は怒りでどうにかなりそうで、読めない


二人に対し警察に暴行被害を訴えると告げると、朦朧としてる中で行われた行為の写真を純香さんや家族、特に息子の俺に見せると脅され、悩みながらも泣き寝入りする

その後も写真と俺をネタに脅され、金森達に何度も何度もホテルに呼び出された

その都度拒否するも体を押さえつけられ怪しい薬で意識を混濁させられて性的暴行を受けていた


そんな地獄の日が続く中で、自分の体の様子がオカシイと気付き、それが毎回投薬される薬の副作用だと察するが、純香さんや家族、特に俺にバレて悲しい思いをされるのが怖くて、とても病院には行けなかったらしい


ハッキリとは書かれてないが文面と状況から推測すると

金森達は最初、新人の部下である純香さんを気に入り手籠めにしようと画策していたが

食事やお茶に誘っても首を縦に振らない上、気の強い純香さんに手を焼いていた時に偶然紹介されたのが俺の母だった

純香さんにも負けない美人の母さんに狙いを変更した金森達

警戒心の強い純香さんと違い、人の良い母は妹のピンチを放って置けない優しい人柄を金森達につけこまれ騙された

そして金森のクズともう一人のゲスに良い様に薬で玩具にされ心も体も壊された


俺はその母のレポートを一字一句頭に叩き込むと、主要な内容を母の手帳に綴り、翌日再び元のロッカーに戻しておいた


母は誰かに気付いて欲しくて記録していたのか、それとも何れ自分でこの事実を誰かに告げるつもりだったのか・・・


今となっては確認しようもない・・





しかし俺は事実を知ってしまった、俺の怒りと憎悪は既に金森ともう一人を絶望と地獄の苦しみの中で始末する事しか考えられない所迄来ていた、

俺はクズとゲスに復讐する事を手帳と自身の憎悪に誓い計画を立てる


問題は純香さんだ

純香さんが万が一にもこの事実を知ると自分のせいで姉が酷い目に遭わされたと感じ自分を責めるに違いない


もしかしたら姉の無念を晴らす為に、金森達二人の悪事を暴こうと考えるかもしれないが、金森はともかくもう一人は一筋縄では手が届かない、間違い無く返り討ちに合い、純香さん自身も純香さんの家族も取り返しがつかなくなる


もし純香さんが母さんと同じ様なことになったら・・・母さんの悲しそうな顔が頭を過る


俺は軽く頭を振り思考をリセットする


俺は、純香さんをこの復讐に巻き込まず、真実を誰にも知られる事無く金森と特にもう一人のゲスに近づく方法を模索する


最短で最適なルートを考えた末に、俺自身が出版社と太いパイプを作りまずは、金森に近づきもう一人の大物を引きずり出す事が最短の道になると思い至る


俺が出版社と有益な利害関係者となる事で、出版社の人間と接点を常に持てる立場になる方法を考え抜いた結果、俺は小説家への道を決意する


しかし普通レベルの作家では所詮、接点を持てても担当者レベルの話だ編集長の肩書きまで出てくる事はないだろう・・・それに、金森のバックに居るもう一人に、この手を届かす為には・・・・


編集長が直々に頭を下げ会いにくる位の地位を・・・誰もが知る程の有名な人気作家にとなる必要がある・・


俺の作品が認知され世間から評価されれば奴は間違い無く俺に接触しようとしてくるはず、だって奴は・・・


しかし、俺の地位が確立する前に、世間に俺の存在が認知されては計画云々の前に金森やもう一人に潰される可能性が高い、それに万が一にも狛田 陽香の息子だと身バレして、もし金森が頭のキレる男だとしたら俺を疑い妨害してくる可能性もある


例え妨害迄行かなくても距離を取られ接点を切られては、もう一人のターゲットの元までの道は永遠に閉ざされるかもしれない







・・・・俺は復讐の為に







・・・・誰からも認知されない存在として生活しその間にひっそりと小説家としての地位を固め復讐の準備をする、その為に残りの人生を掛けて生きる事を決めた





今までの自分を捨て、世間の誰からも目を向けらない様に存在を薄くして、その間に準備を・・・

そしてこの計画は誰にも知られてはダメだ・・・


他の誰も巻き込まない俺の、俺だけの復讐計画とする為に、自滅しても俺だけで済む様に・・・


それからは周りとの付き合いも絶ち、孤立していく俺の変化に小学校からの友達は皆離れていった


俺の事を慕っていた義妹の琴音も「義兄ちゃん、どうしちゃったの?」「ねぇ外で遊ばないの?」「パソコンでゲームしてないで友達と遊びなよ」と俺の変化を気にしてくれ、心配してくれる義妹には申訳ない気持ちしかない

しかし誰であろうと本当の理由を言う訳にはいかない、まして身近な大切な人達には・・・


だから家でも存在の薄い学生を装い、部屋ではパソコンで今のトレンドや情報を収集する傍らで、自分の全てをかけての執筆活動に励んでいた


琴音も中学に上がる頃には、諦めか俺への扱いが変わってきた

一向に改善しない事への怒りなのか、思春期の女の子だからなのか

「ゴミが!」「このクズ!」「陰キャ」「キモオタ」「出ていけよ!」

と俺は琴音にとって暴言と悪態の蔑すむ対象となった、それでも義妹には不甲斐ない自分で申訳ないといつも心の中で謝罪する


この時には既に、父と義母の裏の顔を知っていたので、とうに家族とは思って無かったが、

この義妹だけは俺が守らないと、絶対に俺の復讐に巻き込む訳にいかない、計画を実行する前には琴音に被害が出ない様に配慮しないと


しかし俺も人間だ、大切に思ってる義妹からの言葉の暴力は俺の精神をズタズタにした

此れが自分の選んだ道だからと金森達へ復讐するその日の為、唇を噛みきりながら耐える


学校内での俺の存在もすぐに陰キャ、モブ、ネクラとクラス底辺に格付けされ、唯一、雫だけが普通に変わらず接してくれる、学校でも私生活でも雫だけが俺の心の拠り所だった


しかし、落ちぶれる俺と反比例し雫は自分の努力の甲斐もあり、学業で上位の成績を収めるようになると、元々の世話好きで誠実な性格を周りから評価され、クラス委員長、生徒会役員に選出された


沢山の友人や生徒に頼られ充実していく雫、幼馴染の頑張りが評価される事に素直に嬉しかった


しかし、その分俺に割く時間は減って行き自然に雫とも疎遠になってしまった


雫は相変わらず「けんちゃん」「ケンちゃん」と呼んでくれたが俺は、他の人が居る前では「姫野さん」と呼ぶように配慮した、

自分の計画の為、敢えて落ちぶれる事を選択した俺に雫を巻き込むのは純香さんや琴音と同じ様に俺の矜持が許さない


そして母の誕生日の食事会の時に、偶然を装い純香さんに俺の書いた小説が目に留まるようにすると、元々読書好きが講じて出版社へ入社した純香さんは甥っ子可愛さも相まって俺の書く小説に飛びついた


程なく、純香さんが強引に推し通した俺の小説は正式に出版社から書籍化され店頭に並ぶと、男女問わず小学校高学年から中年層まで巻き込む大ブームとなり販売から僅か3ヵ月で6度の重版がされる空前の大ヒットとなった


関連のカードゲームでは窃盗事件が起こる程のプレ値が付き、テレビアニメ化すると深夜枠にも関わらず異例の視聴率をたたき出し、満を持して映画化するとアニメの興行収益の記録を塗り替え海外でも上映されヒット大ヒットとなった


映画祭では監督と声優達が誇らしくレッドカーペットを歩き、檀上で俺の書いたファンへのメッセージを監督が代読すると会場全体でスタンティングオべーションを巻き起こしメディアで話題になった





俺が高校2年生になるまでの間の2年間で出した書籍シリーズは全て大人気となり、作家【不動 けんいち】の名前は海外にまで波及する日本を代表する作家となった。


「剣一、あんたのお陰で私は編集長に昇進だ!これで禿げ上司と同じポジションになって、やっとセクハラから解放される!!」


恩義しか無い純香さんの、助けに少しでもなれたなら良かったのかもしれないが、母さんの面影のある純香さんから金森の名前を聞くたび殺意が強くなり、どの様に残忍に殺してやるか想像している自分が既に人として壊れてる事を思い知る


「禿げと言えば、うちの社長とその禿げの金森が、連続大ヒットのお礼と慰労でアンタと面会したいと言ってるけど?」







・・・・ようやく此処まで来た・・・もう直ぐだ・・母さん

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