第4話
わたしはあんまり性格がよくない。てか悪い。
ひねくれもので嘘つきで自己中で負けず嫌いで、とにかく他にもいろいろたくさん。
絶対言われると思うのでさきに自分で言っておく。
自覚があるのとないのではだいぶ印象が違うと思うし。
わたしには幼馴染がいる。
かわいくてかっこよくてかわいくて。
超がつくほど完璧な美少女だ。
でも、誰がどこからどう見てもパーフェクト、というのとはちょっと違う。
普通の目線で見たら、パーフェクトどころかわりと社会不適合者だ。
朝起きられない。時間守れない。すぐ顔に出る。下着で寝る。服ダサい。気分屋。コロコロ機嫌が変わる。
ドヤ顔でつまんないギャグ言う。自分のことたまに俺っていう。スーパー美少女っていう。
登校してくるまでのあいだ、パッと思いつくだけでこれ。
他にも細かいことを言い出したらきりがない。
けどそれもひっくるめて、わたしにとっては完璧だ。
完璧なまでに、愛らしい。
「はぁ……」
わたしは自分の席で、小さくため息をついた。
教室一番うしろの席から、窓際の席に目がいく。一緒に登校してきた彼女は、豪快に机に突っ伏していた。
最近のみさきは、ますますきれいに、かわいくなっている。
あえて彼女の言葉を使わせてもらうと、スーパー美少女っぷりにいっそう拍車がかかっている。
胸元まである髪はさらさら。日に当たると黄金色になってきらきら。
きれいな二重の線が好き。笑ったときキュッと上がる唇が好き。真剣に漫画を読んでいるときのキリっとした目鼻も好き。
褒められるとドキってする。近くでじっと見つめられるとドキドキする。いきなり体に触れられると変な声出そうになる。
本人はふざけてやってるのかもしれないけど……わたしには効く。無自覚にえぐってくる。
けど性格があんなだから、学校では誰もが羨む正統派美少女って扱いじゃない。
みんなあんまり口には出さないけど、内心すごい好き、みたいな。わたしはこれを潜在的モテと勝手に呼んでいる。ようするに隠れファンが多いってこと。
わたしたちは一年生で、まだ学校が始まってからそんなたってないから、まだみんな様子見中っていうのもある。
つまりこれから、なんだと思う。あるときつっかえ棒みたいなのが外れて、どっと雪崩を起こすんじゃないかって。
それこそ中学の時は、男みたいな女。
いわゆる変なおもしれー女ってやつ? で通っていた。
最近は教育のかいもあってか、いくらか女の子らしくなってきたけど、まだまだ全然。
ようするに、まだまだ子供。
いつだったか、俺女になっちゃったとか、急にわけわかんないことをいい出したときはどうなることかと思ったけど……。
だいたいあんなかわいい子が男のはずね―だろって思う。
わたしの性癖が狂ったのも、あいつのせいだ。
近くでずっと見せつけられて、もうそれしか見えなくなって、歪んだ。
おいしい餌だけ与えられて育ったらそうもなる。餌は飽きるどころか、日増しにおいしくなっている。
わたしはカバンに手を入れて、スマホの入ったポーチを取り出した。
ポーチには一緒に鍵がぶらさがっている。自分の家のと、みさきのマンションの二つ。
みさきはいま、軽い一人暮らしみたいな状態になっている。
みさきママの親御さんが、病気で入院したとかでみさきママは実家に戻っている。
みさきに何かあったとき用に、合鍵をわたしのママに預けていった。それをわたしが持ち出した。
いちおうわたしも、みさき一人だと不安だから暇だったら面倒見てあげてって、みさきママに言われてる。
だからその気になれば、いつでもみさきの部屋に入れる。朝起こしに行ける。ついでに盗撮もできる。いたずらもできる。
わたしは軽く、指先を唇に触れた。
今朝のことを思い出して、にんまりと頬が緩んでいく。
はぁん、みさきたんの寝顔超かわいい~~。もう超ちゅきちゅきいっぱいキスしたいぃ~~。今日はこっそりほっぺにチュってされちゃったねえ? ねえねえいまどんな気持ち~~?
……え、なに今の怖い。誰?
キモいおじさんみたいの出てきた。みゆおじ出てきた。
わたしの中には、魔物が住み着いているらしい。いや悪魔か。
頭を振って追い払う。慌てて顔を作る。
今日もまた、みさき寝顔コレクションが増えた。
わたしはスマホを手にとって、撮れ高を確認する。
前に下着で寝るのはやめろって言ったからTシャツ着てる。でもよれよれだから首まわりからブラの紐が見えてる。
もっとかわいいパジャマとか着ればいいのに、変なアニメのロゴTにショートパンツ。
寝相も悪いし布団はだけてるし、裾からお腹もちょっと出てるしなんならショーツはみ出そうだし。ほんとだらしない。
あーもう無防備すぎて見てられないこれもう襲われるの待ってるでしょていうか待ってるよね? ちゃんと服着ろとはいったけどこれなんか着てるほうがエロくない? ギリ見えないぐらいが妄想はかどらない? てかあれ? こんな色のブラ持ってたっけ?
「おはよーなに見てんの未優ー!」
「ヒッ!?」
わたしはスマホの画面を伏せてそのまま机に叩きつけた。変な声出た。
クラスメイトの莉音(りおん)が背後からにょきっと顔をのぞかせた。怪訝そうな顔をする。
「どったの? スマホ、壊れるよ?」
大丈夫、クラウドにバックアップしてあるから問題ない。
……じゃなくて、いきなり人のスマホのぞくフツー?
莉音はにへら、と笑いながら、
「もしかして、えっちなマンガとか見てた?」
「ちがいます」
もっとやべーやつです。
えっちなのは間違ってないけど。
「きょうカラオケ行く?」
「なに?」
「みゆみゆを誘ってこいって言われたんだよね」
いつ。誰に。なぜ。
順序立てて話せ。
「いかない」
「そっかー。あ、そうそう、未優ってさいきん先輩に告られた?」
声がでかい。けどどっから嗅ぎつけたのか。
返事はいちおう保留にしてある。
二秒で断ったら角が立つと思って。
「たぶん断る」
「ふーん? なんで? 他に好きな人いるん?」
ノンデリの塊。
だからみさきに戦艦ノンデリオンとかってあだ名つけられる。
「いる」
「え、いるんだ。それって……」
「誰? って聞かないでね?」
暗黒微笑ってこういうやつ?
わたしが笑うと、戦艦ノンデリオンは撤退した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます