第3話

 ちょろっと電車に乗って、学校までは歩きだ。

 目的地が近づくにつれ、歩道に人の数が増えてくる。同じ制服の生徒たちでいっぱいになる。


 その中に紛れながら、あたしは未優のことを考えていた。

 さっきはついごまかしてしまったけど、さて、どうしたものか。 


 未優は寝ているあたしによからぬことをしていること、あたしが気づいてないと思っている。

 あの女、クール系……いやダウナー系とでもいうのか、基本的に口数が少ない。表情の変化も少ない。


 そのため思考がいまいち読めないのだ。

 長いこと連れそっているにも関わらず。

 

 そしてやや天然不思議ちゃんな面もある。

 未優ってそういうとこあるよねって前に言ったら、「それはお前だ」と言われた。

 たまにあたしのこと、お前とかゆってくる。だがそれがいい。

 

 まあその、寝てる間になんかされるのがどうしようもなく嫌でしょうがないとか、全然そういうわけじゃない。

 このぐらいならかわいいものだ。むしろこっそりニヤニヤしてしまう。


 ただこのまま放っておくと、だんだんエスカレートしちゃうのかなとか。どうなっちゃうんだろうドキドキ。みたいな。

 

 ……いやいや待て待て。

 襲われるのが嫌じゃないとかドキドキとか、もうスーパー美少女じゃなくてスーパー変態女じゃん。


 そういうのはダメですよって、毅然とした態度を取らないと。

 にしても未優のやつ、いったいどういうつもりで……。ただのいたずらみたいなノリなのかね。


 それか、もしかしてあたしのこと……いやいや、ないからね。普段そんな素振り全然。

 

 そもそも今は女同士で、友達なのだ。

 せめてあたしが男のままだったら、「きゃあ、なにこれ!」「生理現象なんだからしょうがないだろ!」「これ、どうしたらいいの?」「ええっと、それは……」的なベッタベタだけどそういうのでいいんだよ的な展開になっていたのかもしれないけど……。

 


 気づいたらあたしは学校のすぐ前の通りを一人で歩いていた。周りは知らない生徒ばっかだ。

 いけない、妄想してトリップしていた。


 焦って未優の姿を探した。未優はというと、なんとあたしのずいぶん先を、知らない女子と一緒に歩いているではないか。いつの間に。

 

 未優が他の子と話しているのを見ると、どうもそわそわする。男子に限らず女子でもだ。

 

 未優っちはあたしと肩を並べる美少女であるからして、四方八方からスナイパーに狙われている。まだズギューンされてないのが不思議なくらいだ。

 

 未優はさんざん別の女とイチャコラ(あたしにはそう見える)したあと、校門の前で足を止めた。あたしを待って、声をかけてきた。

 

「みさき?」

「あんだよ」

「なんでいきなり不機嫌? これ」


 紙切れを渡された。なんかわかんないIDっぽいの書いてある。

 

「なにこれ」

「みさきに渡してって。よければメッセとかちょうだいだって」

「は? さっき話してた女?」

「ちがう、べつの男子。昨日渡されたの、忘れてた」


 かーっ。

 あたしは思わず天を仰ぐ。

 ああ、情けない。近ごろの男子というのは、直接本人に連絡先を渡すこともできないなんて。 


「言ってやって。そういうの自分で渡しなってね」

「みさき、話しかけづらいからね」

「あたしが? なんで?」

「男子は気が引けるんじゃない。みさきかわいいから」

「それスーパーお前が言うなのやつ」


 あたしは未優ほどツンケンしていない。基本的には来るもの拒まずだ。

 いっぽうで未優は俗物は話しかけてくんなオーラがすごいから、一緒にいるとあんまり話しかけられない。


「モテるよねみさき」

「まあ、スーパー美少女ですから?」

「すごーい」


 すごーい棒読み。つっこんでもらえないとあたしが滑ったみたくなる。

 そんなことないよ、とか言うと厭味ったらしいって逆に悪く取られるので、あえて振り切っているのだ。スーパー美少女はそういう細かい思慮の上生み出した呼称である。


「みさきって、彼氏作ったりしないの」

「いやいや、ないない。あたしは男だったって言ってるでしょ」


 またなんかいってるよこいつみたいな顔された。呆れを通り越してもう憐れみ? なんかそんな感じ。

 あたしは元男だ発言をするとすぐこれだ。


「ふぅん。じゃあ、女の子が好きなんだ?」

「ウッ、ウーン……」

 

 それ、すげえ困る質問です。

 実はけっこう重たい話? 昨今はやりのそれ系の問題に向き合わないといけない?


 まあ現段階では、だ。

 男とどうこう、ってのは考えられない。


 未優にちんちんついてたらワンチャンくわえられなくもないかもだけどおいお前は何を言っているんだやめろ。


 しかしこれ系の話を未優から振ってくるなんて、珍しいこともあるもんだ。まあめちゃめちゃ答えにくいんだけど。ごまかすんだけど。


「ま、まあ俺はほら、ちょっとややこしいからおいといてさ。未優のほうこそ、どうなの。彼氏とか……」

「……はぁ」


 これみよがしにクソでかため息を吐かれた。

 え、あたしいまそんな呆れられるような発言した?


 質問を質問で返すなってことかもだけど、実際未優がそこんとこどうなのかっていうのは気になる。非常に。

 未優はあたしの顔を見ずに言った。


「あのね、わたし、彼氏できたから」

「……ほ?」


 ボケたおじいちゃんみたいなリアクションになってしまった。

   

「……今、なんておっしゃいま?」

「彼氏。できたの」


 いきなりぶっこみしてきた。

 ハードラックとダンスっちまってる。

 

 え、待って。

 彼氏とか作らないのって言うけど未優だってお互いさまじゃんかよ~。

 みたいにオチがつくと思ってたんだけど。 

 

「だから、みさきといる時間が減る……かも」

    

 未優は顔を上げることなく、うつむきながらいった。


 あれ、なんだろう。

 なんか急にNTRっていう文字が頭に浮かんできた。

 

 TSからのNTR。合体してNTRTS。

 わぁ、最新グラフィックボードみたい。かっちょいい。


「そ、そうなんだぁ。ははは知らなかったなぁ~……おめでとう~」


 いやもちろん未優と付き合ってたわけでも、告白して断られたわけでもないんだけど。

 もしかして未優ってあたしのこと……とか、頭悪そうな妄想をしていた数分前の自分を殴りたい。



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NTRはないのでご安心ください。

Yandereはありますのでご安心ください。

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