第2話
あたしと未優は一緒にマンションを出て、路地を歩いた。
あたしと未優は同級生で、同じ学校で、同じクラスだ。
あたしと未優は同じぐらいの背丈で、体重で、おっぱいだ。
あたしと未優はおっぱいだという意味ではない。同じぐらいの胸囲だ、と言いたかった。そして若干盛ったかもしれない。あたしのを。
さらにほんとはあたしのほうがちょっと身長でかい。おそろにしたくて逆サバ読んだ。
未優はあたしの家のマンションを出てからこのかた無言だった。エントランスで同じマンションに住むお姉さんとすれ違ったときも、あたしがスーパー美少女スマイルしている隣で無愛想に小さく頭を下げるだけ。
でもこれが平常運転だ。
一緒に登校はするけど、未優に足並みをそろえる気はない。早足ですいすい先にいってしまう。あたしは隣に追いついてご機嫌をとっていく。
「みゆたんどうしたのそんな急いで。学校は逃げないよ」
「みさきのせいで遅れる。遅刻すると黒井がうるさい」
黒井とは担任の中年男性教師だ。未優は黒井が苦手らしい。
「だいじょうぶだよ、『先生今日もイケオジですね☆』ってやれば」
「はははそうだろ、そんぐらいわかってるって」とかいってちょろい。
この人生舐めてるメスガキが。なんて言ってこない。
ていうかそんな媚を売らなくても、べつに怒られはしない。
「そういうの、嫌い」
未優はちら、と一瞬あたしを睨むようにしていった。おお怖い。
未優はかわいいのに女の武器を使おうとしない。ブラウスのボタンを一番上まできちっと止める。スカートも長い。防御力高い。
「未優、なんか怒ってる?」
「怒ってないけど」
と言いつつ不機嫌そう。
このようにみゆたんは基本的に塩対応だ。大塩平八郎もびっくりの大塩だ。
だからさっきのベッドでの行為が同一人物によって行われたものといわれても、どうもしっくりこない。
未優が普段から「みさきたん超かわいい~~。もう超ちゅきちゅきいっぱいキスしちゃうぞっ」みたいなノリだったらまだわかるんだけど。
ちなみに寝込みを襲われるのは、あたしが認識しているだけで二回目である。
前回あたしは寝ぼけていた。
あれは夢か何かだったのかと、確信がもてなかった。
しかし今回は狸寝入りをすることにより、裏を取った。
やはりヤられていた……と言いたいところだけど、実際はビビって目を閉じてしまった。
唇の感触に近いもの……こんにゃくとかをほっぺたに押し当てられただけの可能性もある。未優はこんにゃく押し当て教の信者かもしれないし。
だからまだそうと決まったわけではない。
あたしは歩きながら、こっそり未優の横顔を盗み見る。
ややうつむきがちなおすまし顔。
黒髪ふんわりショートボブが今日も似合ってる。
「なに……?」
気づかれた。不審そうな目があたしを見る。
しかしここで、「おめぇあたしが寝てる間にブチュってしたろ!」とは言いにくい。
未優とはふだん恋愛トークというか、下ネタというか。
いや下ネタではないけども、そういう性的な話はほとんどしない。
だからキス、とかそういう単語を口にするのも憚れるっていうか……とにかくそういう感じゃない。
仮に聞いたとして、「したけど? それがどうかした?」って真顔で返されたらどうするって話。
ちなみに彼女には、あたしが男だったことを話したことがある。何回も。 例によってまったくこれっぽっちも微塵たりともあたしの話を信じてくれてないけど。
困ったあたしはキリっとイケメン顔を作った。
これは決め顔ではなく、ふざけるときの顔だ。
「……未優。今日もかやいいよ」
あたしは吐息多めに決め台詞を吐いた。噛んだ。
未優はふいっと目をそらした。なんとかごまかすことに成功した。
「すきあり!」
さらに未優の脇腹を指先で突いた。
すぐさま腕ごと手を払われる。
未優は首筋を赤くしながらさらに早足になった。ぷんぷん、とでも擬音が聞こえてきそうだ。
かわいい。ここだけ切り取るとかわいいのだけど……。
あたしはにこにこぷんで後を追った。
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