第18話

長い冬の先には暖かな春が待っている。

新たな命が芽吹き山が萌える季節が。

校門前の桜並木を見上げると、風雪に耐えた固い蕾が春の柔らかな日差しに包まれ、キラキラと力強く命を輝かせていた。

「先生」

大好きな彼の掌が僕の手の甲へ遠慮がちに触れる。

無事に卒業を迎えた朔矢。A組の生徒は八割が進学し、残り二割は就職の道を選んだ。誰一人欠けることなく今日という大事な日を迎えた。朔矢は予備校に通いながら大学受験を目指すという。

「ごめん、手……繋いでもいい?」

「いちいち謝るなよ。僕たちもう先生と生徒じゃないんだぞ」

互いに抱える闇は深い。それぞれ違うトラウマを抱えている。

どんなに辛くても苦しくても、生きていかないといけない。だからこそ、朔矢と手を取り合い助け合い、いつか必ず乗り越えて見せる。

彼女もいつかきっと許してくれるだろう。僕が幸せになることを。

「先生じゃないなら何て呼んだらいいかな? 和沙でいい?」

「いきなり呼び捨てか」

「だって、俺たち、こいびと、どうしだよ。今日から同棲だって始めるし。今、すっごく幸せ」

朔矢が握り締めた手をぶんぶんと大きく振った。

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