第16話

「そうだよね。まだ、先生と教え子だもの。ごめん、なさい」

今にも消え入るような声に、後ろを振り返りその肩を抱き寄せたい衝動に駆駈られた。そのまま押し倒し、唇を奪い――

「もしかして先生、えっちな事考えてる!?」

「そんな事あるわけないだろう。大人をからかうもんじゃない」

布団を頭から被り寝たを決め込んだ。

「ねぇ、先生。先生ってば」

肩を揺すられ、彼の声が耳を掠める。

その響きに一度は抑えたはずの熱とドキドキが蘇ってきた。一気に体温が上がりのぼせているかのように頬が、耳朶が、頭の中が熱くなる。

息さえうまくできつけなくなっていた。

(好き……どうしようもないくらい、好き……)

彼への想いをはっきりと自覚した瞬間、彼女の顔がまた浮かんできた。

(前へと進むために、ちゃんと会って話そう。謝ろう。先生も恋を知り、君の気持ちがようやく分かったと)

ベットが微かに軋む音がして、諦めたのか、それとも不貞腐れたのか、背中に顔を埋めてくる朔矢。

「先生……」

うなじに熱い彼の息がかかる。

「卒業するまでは我慢しようと思ったけど無理みたい。俺、先生の事が好きだ……もっと甘えたいし、側にいたい。ごめん、こんなこと言われても正直困るよね?」

真っ直ぐなまでの真摯な想いに心が大きく揺れる。

僕だけの一方的な片想いで終わる恋だと思っていたのに、彼も好きでいてくれた。飛び上がるくらい嬉しかった。でも今は先生と生徒。禁忌を犯す訳にはいかない。同じ過ちを二度も起こしてはいけない。その思いが心にブレーキをかけた。

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