第14話

「必要のない人間、親からも誰からも愛されない人間、先生も、本当は、俺の事お荷物だと思っているでしょう?」

朔矢の腕が微かに震えていた。

「そんな事ある訳ないだろう」

そっと腕に触れると、火傷しそうなくらい熱くて驚いた。

「俺……」

何かを言い掛けてすぐに黙り込んでしまった。

「やっぱいい。お休み」

朔矢は何を言いたかったのだろう。聞き返すも応答はなかった。彼の熱を貰い、全身がカァッと熱くなるのを感じた。

心のずっと奥で、彼への思いが溢れ出す。

この感情は……そう、好きという気持ち。まさか、そんな……。

狼狽え、焦りばかりが募る。相手は教え子で、男で、年下で……あぁ、だめだ。ドクンドクンと心臓が今にも飛び出してきそうになり、布団の中にごそごそと潜った。

「先生!?」

きっと変に思われただろうな。怪訝そうな声が耳に届いたけど無視し寝たふりを決め込んだ。

一度意識しはじめると、彼の所作、何気ない仕草、言動の全てが気になって仕方ない。無意識のうちに彼を目で追い、好きな気持ちは日に日に増していった。

朔矢を好きになり、彼女の気持ちに初めて気付いた。どれほど辛く苦しかっただろう。決して報われない恋心に身を焦がし、結ばれる事がないと分かった瞬間、彼女はストーカーと化したのだから。

謝ろうと何度か彼女の面会に医療少年院を訪ねたけれど当然ながら門前払いを受けた。今も苦しんでいるなら変わってあげるのに。鈍色の空からは冷たい霙が降り続いている。それはまるで彼女が流す涙の様だった。

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