第13話

「さ、朔矢!」

どこでも寝れるからベットを使ってもいいよって、今しがた言ったばかりなのに。横になるとすぐに彼が潜り込んできた。ただでさえ狭いシングルに大の男が二人。壁側に追いやられ、身動きを封じられた。

「この五年、いつも一人だから、怖くて夜は灯りを付けっぱなしで寝ているんだ。今夜は久し振りに灯りを消して寝れる。ありがとう先生」

背中にしがみつき、嬉しそうにすりすりと頬を擦り寄せてくる朔矢。

体は大人へと成長しているのに、中身は子供のままで止まっている。誰かが面倒をみてやらないともっとダメになる。

「朔矢、さっき五年間って言ったよな? まさか中一から一人暮らしをしているのか?」

「うん、そうだよ」

驚く僕とは対照的に朔矢は落ち着いていた。昔話をするみたいに自分の事を話してくれた。ある資産家の落とし子種として生を受けた事。骨肉の遺産相続に巻き込まれ、莫大な遺産を目にした途端、それまで優しかった母の人格ががらりと変わってしまった事。遺産で購入したマンションに息子を置き去りにし、自分は若い愛人を何人も囲い別のな場所で贅沢に暮らしている事。

「生活費はどうしているんだ?」

ずっと気になっていたことを聞いてみた。

「十八になるまでは出すけど、あとは自分でどうにかしろって」

「はぁ!?」

親として最低限度の面倒も見ずほったらかしで。呆れて物も言えない。

「先生って一人暮らし?」

「あぁ。流石に、姉家族とは一緒に暮らせないだろ。お互い色々気を遣うから」

「そうなんだ。じゃぁ、先生のうちで暮らそうかな」

冗談とも取れない発言に心が揺れる。

「駄目だ」

「えぇ!! 何で!!」

不満を露にする朔矢。

「教え子と一緒に暮らせる訳がないだろう」

「じゃぁ、さぁ。俺がちゃんと卒業出来て、教え子じゃなくなったらいいよね? 決まり!」

「こら勝手に決めるな……さ、朔矢!!」

首筋に彼の鼻息が掛かりくすぐったくて、体を捩ると、脇の下から彼の腕が伸びて来てそのまま抱き締められた。背中に彼の逞しい胸板がピタリと隙間なく密着してきて、心臓がドクンと大きく跳ねた。

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