第12話

「一人は嫌だ。話す相手も、他愛もない冗談を言い合って笑える相手もいないんだよ。空っぽの真っ暗な箱にいつも一人ぼっちで。先生はいいよ、側に家族がいてくれるから、俺の寂しさなんかこれっぽっちも分からないと思う」

「朔矢……」

俯き、伏せた眦から光る物が一筋零れ落ちる。

思春期真っ只中。ただでさえ難しい年頃の朔矢。無償の愛情を注いで、支えてくれる存在であるはずの親からネグレストされ、誰にも助けを求めずたった一人で生きてきた。

「分かったよ。ただし今晩だけな」

「えぇ! 今日だけ?」

ムッとして唇をつまむ。

「当たり前だ。それと手」

「手!?」

惚けたような顔で視線を下へ向ける。

「だって、先生の手、綺麗なんだもの」

しれっとして朔矢は答えた。

「男の手のどこが綺麗なんだよ。大人をからかうんじゃない」

嗜めようとしたら、指先が肌をそろりと撫でてきた。

「肌理が細やかで、白魚の様に肌が透き通っていて……指もほら、こんなにほっそりしていて……」

手の甲から指へと、彼の指先が伝わっていく。

「先生の手、俺好きだよ」

朔矢の顔を見上げれば、今まで見たことがない熱っぽい眼差しを真っ直ぐに向けられた。

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