第6話

「ねぇ、先生」

くすりと朔矢が笑った。きっと変に思われたに違いない。必死で平静を装った。

「少し散らかってますが、お茶くらい出しますよ」

「いや、そろそろ帰るよ」

「遠慮しなくても、どうぞ」

朔矢はそのまま自宅である801号室へ向かった。

「ちょっと待ちなさい!」

慌てて彼の後を追った。

玄関から一歩中に入ると、足の踏み場もないくらい散らかっていた。ろくに掃除も、ゴミ出しもしていないんだろう。鼻を突く悪臭に噎せって顔を顰めると、朔矢がまたクスリと笑った。

「ご両親は?」

当然いるものだと思っていたが。

「先生、さっき言った事もう忘れたの?」

「さっきって……あぁ、確か〝親はいません〟って……もしかして一人で暮らしているのか?」

朔矢は今頃分かったのと涼しい顔をしていた。こっちは腰を抜かすくらい驚いているというのに。どんな事情があるか知らないけど、まだ未成年の高校生を一人暮らしさせるなんて。親は一体何を考えているんだ。生活の面倒くらい見てやればいいのに。

「あの人達にとって俺は、空気みたいな存在だから別に気にしていない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る