第5話

「秀峰高校の三年A組の担任の砂金と申します」

しばらく応答がなかった。

『親はいません』

「仕事かな? 別にご両親がいなくてもいいんだ。そ、その……顔を少しだけでいいから見せて欲しいんだ。しばらく学校に来ていないから……元気か心配で……」

『――分かりました。どうぞ……』

自動ドアのロックが解除されようやく建物の中に入る事が出来た。流石は噂に聞きし億ション。ピカピカに磨き上げられた大理石の床や、シャンデリアなど内装から調度品まで全てが高そうで、豪華絢爛だった。挙動不審者の様にキョロキョロ辺りを見回しながらエレベーターに乗り込み、朔矢の自宅がある八階のボタンを押した。

ドアが開き八階のフロアーに出ると朔矢が出迎えてくれた。Tシャツとジーパンというラフな格好だが、すらりと伸びた長い足とスリムな体は、彼の魅力を更に際立たせていた。同じ男なのに、彼の方が七歳も年下なのに、こうも違うとは。まさに雲泥の差だ。

「珍しい名前だね」

あの朔矢が喋っている。しかもちゃんと顔を見て。

「〝砂〟に〝金〟で、いさごっていうんだ」

「へぇ~」

「良かった、元気そうで。先生、顔を見に来ただけだから……そ、その、帰るな。明日、一時間だけでもいいから学校に来い。このままだと留年になるから、そ、その……」

同性でも思わず見惚れる、意思の強そうな双眸を真っ直ぐに向けられ心拍数が一気に跳ね上がった。ドクンドクンと心臓の音が喧しい。

男に見つめられ、ドキドキするなんて、普通は有り得ないのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る