第3話

「静かにしなさい」

学年主任の声は当然ながら生徒の耳に一切入らない。何を言っても聞かない、騒ぐ、勝手に教室から出入りする。ある程度覚悟はしていたものの、予想以上にひどい有様だった。しかも窓側の最前列の生徒は不登校気味だとつい五分前に教えて貰ったばかり。初日から前途多難。先が思いやられる。

「あとはお願いしますね」

挨拶だけ済ませるとそそくさと撤収する学年主任。無責任にも程があるだろうに。騒々しいなか、点呼を取っても返事をする者は誰一人いない。SHを終え職員室に戻ろうとした時だった。鞄を肩に担いだ生徒が教室に入ってきたのは。

「おう安部! 久し振り」

「珍しいなお前が学校に来るの」

クラスメイトに冷やかされながらその生徒は真っ直ぐ最前列の空いている席に向かった。

長身痩躯で、やや伏し目がちな横顔は、大人びた雰囲気を漂わせていた。着席するなり目が合った。

「今日から担任になった砂金だ……えっと……」

名前が出て来なくて出席簿に目を落とした。

「朔矢だよ先生。安部朔矢」

「あぁ、そうだったな」

ゲラゲラと笑い者にされながら、笑顔で彼の顔を見ると、ぷいっと顔を逸らされてしまった。左耳にピアスを二個付けているものの第一印象は決して悪くない。

安部朔矢……か。人見知りが激しく、なかなかクラスに馴染めず孤立し、不登校になった生徒。

こうして見ると、真面目そうで素直そうないい子に見えるけど。気付けば彼の事ばかり目で追っていた。初対面にも関わらず不思議と惹かれる何かがあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る