第4話 お休みと狐の謎
翌朝、小鳥のさえずりで目が覚める。今日もやることがたくさんある。
気合を入れて体を起こそうとした瞬間、
「いったーーーい!」
体中の筋肉がビキビキと痛み始める。昨日体を酷使した代償が今になって襲い掛かってくる。
日ごろ運動してこなかった過去の自分を悔やみながら、壁に伝って居間へと向かう。
ふすまを開けると日和様と目が合った。
「おぬし!どうしたんじゃ⁉」
日和様はしっぽの毛を逆立てて問いただす。
「全身筋肉痛で…」
「だから言ったじゃろ、無理はするなと。湿布を持ってくるからそれを貼って今日はおとなしくしておれ」
「…はい」
ということで今日は居間のテレビを見ながらじっとしていることにした。
何の変哲もない居間で見慣れた番組をぼーっと眺める。
神様のいる生活をしているのに以前の生活と何の変りもないことに違和感を感じる。
この疑問感が初日にあった不信感を引き立てる。
本当に神様なの?
まだ数日しかたっていないけど、いまだに神らしいことをしているところを見ていない。
日和様はいつも何をしているんだろう?
気になって日和様を探しに行くことにした。
縁側から外を見ると、昨日と同じように花壇に水をあげていた。
その様子をじっと眺める。何の変りもないただの水やりだ。
水をもらったひまわりも見た目上は何も変化もない。
普通より早く成長したり変わった植物になったりはしていないみたいだ。
水やりを終えた日和様は別の場所に移動しだした。
そのあとをこっそりと追いかける。
神社の裏手をずっと進んだ先に滝と川があった。
草むらの陰で日和様の動向をじっと観察する。
日和様は岸辺に座り込むと糸の付いた長い棒を大きく振り、川の中に糸を垂らした。
どうやら釣りをしているようだ。
体を横に揺らしながら魚がかかるのを待っている。
しばらく経って小魚を釣り上げていた。
こっちも普通だ。後姿はまるで夏休みで沢釣りに来た子どもみたいだ。
その愛くるしさに心を奪われそうになったが、それだけで私の疑いが晴れることはない。
長くなりそうだから先に帰って日和様が帰ってくるのを待つ。
居間のテレビをつけ、流れている映像をボーっと眺める。
そういえばテレビと向かって座っている私の後ろにはまだ空いたところを見たことがない押入れがある。
なにも見つけられなかった悔しさから、もしかしたらここに何かあるのではとやけになってしまい、うずうずしてついに押し入れを開けてしまった。
中には将棋盤、おはじきなどの昔の遊び道具や本、いろんなものがたくさんあった。
ごく一般的な押し入れで私の期待しているものは何も見当たらなかった。
ほかに何かないか奥のほうを見てみようとすると、遠くから足音が聞こえてくる。
急いで片付けて何事もなかったかのようにテレビを眺める。
「今からお昼をつくるからの。もう少し待っておれ」
「あ、私も手伝います」
私は何も疑った様子もなく台所に向かった日和様を追いかけた。
午後からも日和様の動向を追っていく。といっても、テレビを見たり、本を読んだりしているだけだ。
「さっきからわしのかをばかリ見てどうしたんじゃ?何か変なものでもついておるのか?」
「いえ、別に何もないです」
「そうか?ならいいんじゃが」
危うく日和様に探りを入れていることがばれるところだった。
こうなったら直接聞くのがいいんじゃないかと思えてきた。
でももし私が騙されてるだけだとしたら?どこからか怖い男たちが出てくるかも?もしくは変な宗教に無理やり加入させられたり?
「じっとしているだけじゃおぬしも暇じゃろ。なにかするかの」
日和様はさっき私が漁ってた押入れからいくつかの遊び道具を出した。
「申し訳ないんですけど、どれもやったことがないので出来ないです」
「そうなのか?それじゃあわしが教えてやろう。これなんかどうじゃ?」
私の目の前に出してきたのは五目並べだった。
「これはただ自分の色の石を五つ並べるだけじゃ。簡単じゃろ」
「どうでしょう。できる気はしないんですけど」
「誰でも初めはそうじゃ。試しにやってみよう」
日和様は私に一つ一つ丁寧に教えてくれた。私もやっていくうちに次第にうまくなっていくのを感じる。
気がついたら辺りは暗くなっていた。何十回もやったけど、日和様には一回も勝てなかった。
結局、この日は神様っぽいものは見つからなかった。
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