第3話 古びた神社と初仕事
目が開いたころにはもう外は明るくなっていた。
森で作られた濃厚な空気をお腹いっぱいに吸い込んで布団から出る。
居間に行くと女の子がお茶を飲みながらテレビを見ている。女の子にはもちろん狐の耳とフワフワのしっぽが生えている。
やっぱり昨日のは夢じゃなかった。
「おはようございます」
「おはよう。しっかり休めたかの」
「はい、おかげさまで」
「そうか。では朝ご飯を食べたら仕事に入ってもらうとするかの」
日和様がすでに作ってくれていた朝ごはんのおにぎりを食べる。ほどよい塩加減がお米の甘さを引き立て、億劫な朝ごはんもするする入っていく。
あっという間に食べ終わってしまった。
少し休憩して外に出る。
葉っぱに乗った雫が朝日を乱反射してキラキラしている。
改めてみると本殿は言うまでもなく、庭には雑草が生き生きとしていて、石畳には土と落ち葉で所々見えなくなっており、さらには苔がいたるところについている。
これはかなりの重労働になりそうだ。
まずは石畳の掃除から始めよう。
掃除用具入れに入っていたほうきで掃いていく。落ち葉や小石は落ちていくけど、土がくぼみに入り込んでうまく取れない。
どうしても取れないところは一旦そのままにして、一つ一つ念入りに掃いていく。
一通り掃き終わって振り返ってみる。
目立つごみは取り除かれているけど、やっぱり土が残っていて綺麗になった気がしない。
なにかきれいにするいい方法はないかと周りを見てみると、本殿の横に花壇があり、そこで日和様がホースで水をあげていた。
「あの、そのホース借りてもいいですか?」
「もちろん良いが、何に使うんじゃ?」
「石畳の土がうまく取れなかったから水で流そうと思ってるんですけど大丈夫ですか?」
「ああ、いいぞ。ちょうど水をあげ終わったところじゃ。使ってくれ」
日和様からホースを受け取る。
花壇に生えている植物は空に向かってまっすぐ伸びている。
「何を育ててるんですか?」
「ひまわりじゃな。もうすぐ夏になるからの」
「そうなんですね。花を育てるの好きなんですか?」
「うーむ、特別好きというわけではないが、ほかにすることがないからな。じゃが、毎日手入れをしてきた花がきれいに咲いたときは感激じゃな。おぬしももうすぐでこの気持ちを味わえるぞ」
「楽しみにしてますね。では、私は掃除の続きに戻ります」
「ああ、じゃがあまり無理するでないぞ」
軽く会釈して掃除に戻る。
早速石畳を水で濡らしてブラシでこすっていく。
こすり終わった後に出てきた汚れた水を横に流すと、黒から薄灰色へと変貌した石畳が露わになった。
「これでよし!」
もうここでカーリングができそうなほど、は言いすぎだけど、それだけ綺麗にしてやった。
おでこからにじみ出てきた運動した証をさっと拭う。
「おお!だいぶ見違えたのう。どうじゃ、そろそろ休憩にしようか」
石畳を掃除するだけでもうお昼になっていた。ほかの場所を見ると先が思いやられる。
一旦考えるのを止め、休みを取ることにした。
お昼ご飯はすでに日和様が準備してくれていた。といっても、昨日の残りの肉じゃがだけど。
一晩おいた肉じゃがはさらに味がしみ込んでいて一段とおいしくなっている。
お昼の分のエネルギーを補給し終わると、次の作業に取り掛かる。
次は手を洗うところ、
まずは手水舎の水を抜く。濁った水がすべて抜けたら生えている苔を取り除いていく。
底を触ってみると泥やぬめりもある。
正直、触りたくないけど、仕事だからと自分に言い聞かせ、我慢してたわしと洗剤で磨いていく。
しばらく磨いてもなかなか落ちない。だんだん腕が重くなっていく。それでも根気強く磨いていく。
洗っては流し、洗っては流しを何回も繰り返す。
やっとの思いで清潔感のあるつやつやな石に若返らせることに成功した。そのころにはもう日はすでに木々の布団をかぶっていた。
「ぷはぁ~!」
声に出して息を吐きだす。酷使した腕の筋肉がプルプルしている。
今日はこれくらいにしておこうか。
本殿のほうからいい匂いが風に流されて鼻をかすめていく。日和様が夜ご飯をつくっているのかな?
台所に入ると日和様がフライパンを華麗に振っていた。
「私も手伝います」
「こっちは大丈夫じゃ。それより、かなり汚れておるみたいじゃな。先にお風呂に入ってくるとよい」
日和様は台所に入ろうとした私を無理やり風呂場に押しこむ。
鏡を見てみると、いつの間にか顔にまで汚れがついていた。
さすがにこのまま手伝いにも行けるわけもなく、お言葉に甘えてお風呂に入ることにした。
体をきれいにして居間でしばらく今で待っていると、日和様が料理を持ってきた。
「さあ、お腹が減っておるじゃろ。いただくとしようかの」
日和様と一緒にご飯を食べる。おいしすぎて全部平らげてしまった。
「掃除は大変じゃなかったかの?」
「大丈夫です。まだまだやるところもあるので頑張らないと」
「そんなにやりすぎると体が持たんぞ。ここにはほとんど誰も来んからゆっくりやっていけばよい」
「そんな。せっかくここにおいてもらっているので、そういうわけにはいかないですよ」
「そうか?さっきも言ったが無理はするでないぞ」
この後、日和様と一緒にテレビを楽しんだ後、部屋に戻って眠りについた。
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