第6話 真の敵

医務室の闇がすべてを包み込む中、乗組員たちは凍りついたように動けなくなっていた。ジャン=ルイは冷静さを保ちながらも、内心では恐怖と焦りが交錯していた。彼はスクリーンに映し出された新たなメッセージを見つめ、深い決意を固めた。


「我々はまだ終わっていない。真の敵が現れる前に、全員で立ち向かう準備をするんだ。」ジャン=ルイは力強く言った。


乗組員たちはジャン=ルイの言葉に従い、再び冷静を取り戻し始めた。マリーはデータパッドを手に取り、エクリプスの記録をさらに詳しく調査し始めた。エマニュエルはエネルギー装置の再調整を行い、クロードは船内の通信システムを修復しようとしていた。


「船長、エクリプスの記録には、まだ解明されていない部分が多くあります。しかし、その中に興味深い情報がありました。」マリーはスクリーンに表示された記録を指し示した。「エクリプスの乗組員たちは、ある異常なエネルギー反応を検出していました。それが影の存在と関係している可能性があります。」


ジャン=ルイは深く考え込んだ。「そのエネルギー反応が影の源だとすれば、それを逆利用して影を消し去ることができるかもしれない。」


マリーは頷き、データをさらに解析し始めた。「このエネルギー反応は、特定の周波数帯域で発生しています。それを利用すれば、影の存在を無効化できるかもしれません。」


その時、船内の通信システムが再び異常を示し、スクリーンに新たなメッセージが表示された。


「我々はここにいる…お前たちは逃れられない…」


不気味な囁き声が耳元で響き、乗組員たちの背筋を凍りつかせた。ジャン=ルイは決意を新たにし、乗組員たちに指示を出した。


「全員、エネルギー装置の再調整を急げ。その周波数帯域を利用して影を無力化するんだ。」


エマニュエルは装置の調整を急ぎ、マリーはデータを元に正確な周波数帯域を設定した。クロードは船内の通信システムを修復し、エネルギー装置の制御を担当することになった。


その間も、影の存在は船内を徘徊し続け、不気味な低音と冷たい風が絶え間なく続いていた。腐敗した金属の臭いがさらに強くなり、乗組員たちは息をするのも辛くなった。


「全員、準備はいいか?」ジャン=ルイは力強く問いかけた。


「準備完了です、船長。」エマニュエルとマリーが同時に答えた。


ジャン=ルイは深呼吸をし、エネルギー装置のスイッチに手を伸ばした。「いくぞ…エネルギー装置、起動!」


その瞬間、装置が作動し、船内に特定の周波数のエネルギーパルスが放たれた。照明が激しく明滅し、不気味な低音が次第に高まり、まるで船全体が震えるかのようだった。影は形を変えながら、苦しみの声を上げ始めた。


「止めろ…お前たちは…」


影は激しく揺れ動き、次第にその存在を失っていった。照明が再び明るくなり、冷たい風が止んだ。乗組員たちは息を呑みながら、その変化を見守っていた。


しかし、その安堵も束の間、新たな異常が船内に発生した。スクリーンには再びメッセージが表示され、今度は影の存在が実体化し始めた。黒い霧のようなものが形を取り、無数の手が伸びてくるかのように見えた。


「これは…一体何なんだ?」ジャン=ルイは呟きながら、スクリーンに目を凝らした。


その影の中には、かつてエクリプスで失踪した乗組員たちの顔が浮かび上がっていた。彼らの表情は苦痛に満ちており、まるで助けを求めるように手を伸ばしていた。


「助けてくれ…我々は…囚われている…」


スクリーンに映し出された顔が呟くたびに、ジャン=ルイの背筋は冷たく凍りついた。彼は全てを理解した。この影の存在は、かつてのエクリプスの乗組員たちの怨念が具現化したものだった。


「我々がこのままでは、この船も同じ運命を辿ることになる…」


ジャン=ルイは強く決意した。この恐怖を終わらせるためには、何としても影の正体を暴き、その怨念を解き放つしかない。彼は医務室の乗組員たちに向かって言った。


「全員、これからが本当の戦いだ。我々はこの船を守り抜く。そして、エクリプスの乗組員たちを解放するために、あの影の正体を突き止めるんだ。」


闇の中で、彼の決意は固まり、新たな戦いの幕が開けようとしていた。しかし、その先に待ち受けるのは、未知の恐怖とさらなる試練であった。


医務室の外から再び不気味な低音が響き渡り、影の存在が彼らを取り囲んでいた。ジャン=ルイは全員に冷静を保つように呼びかけ、エネルギー装置の再調整を急がせた。


「我々は決して諦めない。この影を完全に消し去るまで、戦い続けるんだ。」ジャン=ルイの声には確固たる決意が込められていた。


影の存在が再び実体化しようとする中、乗組員たちは最後の抵抗を始めた。彼らの戦いはまだ終わらず、影の背後に潜む真の恐怖と対峙するための準備を進めていた。

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