第26話重力




重力自動車が目の前を走り去った。

名前は『エターニティー』だったハズだ。

なんて言い難い名だ・・・俺なら『エターニ』かな、めちゃ言いやすい。


あれって高級車として販売されていて、人気絶頂だから中々手に入らない。

それをよく買ったな・・・金持ちのボンボンか・・・


「みてみて、あれって1億6千万円の高級車だわ。わたしも1度でもいいから乗りたい」


「そうね・・・排気ガス0のエコカーだし、電気自動車のように充電も不要だなんて・・・」


「じゃーなんで浮いて走ってるの・・・」


「あなた、最新情報にうといのね・・・」


あ、3人の女性が立ち話してるぞ。

あの背の高い女性が情報通のようだ・・・


「魔石の魔力を使って重力制御して、浮かせて走らせているのよ。だから急な坂道でも減速しないの・・・」


「追突事故を起こしたら、電気自動車みたいに燃えたりしないの・・・」


「事故自体が有り得ないのよ。安全装置で周囲を監視していて事故回避をするって・・・それでも衝突されても事故にならないわ」


「なんでよ・・・おかしいわ。衝突されたら事故よ」


「もう・・・重力緩衝かんしょうって知ってる」


「全然しらない」


「わたしも」


「重力緩衝は、重力を使って衝撃を吸収して0にするのよ」


「そっれて人間にも同じようになるの・・・」


「安全装置で周囲を監視してるって言ったでしょ。当たる前に止まるわ。それに最終手段があるの・・・黙って内緒にしようかな・・・」


「なによ、教えてよ」


「お願い・・・そんなに焦らさないで」


「安全な空に逃げるのよ・・・普段は20センチ浮いてるけど「パッ」と空に逃げれば安全でしょ・・・信号機も把握してるから当たることはないわよ」


「そんな車って最強だわ。誰か持ってる人、いないかな・・・」


「ここだけの話よ」


「なになに・・・」


「あそこに旭工房ってあるでしょ」


「そうね、あるわね・・・」


「あれが・・・普通のポーション屋に見えるけど・・・」


ああ、俺の店の話が出てきたぞ。

やっぱ旭の名が定着してる・・・俺が好きな名でいいって言ったから・・・


「早く言ってよ」


「あそこが使ってるライトバン、店のロゴが入ってるけど3台も重力自動車なのよ」


「ライトバンの重力自動車がどうしたのよ」


「あんた話の流れで分からないの・・・1億6千万円の高級車よ。ライトバンって有り得ない。それに販売されてないのよ」


「ホントに・・・」




ああ、店を見てるから裏口から入ろう。


あ、旭とバッタリ出会った。


「師匠、これが弁護士と相談して作成した契約書です。サインを・・・」


ササッとサインをした。もう信じ切ってるから・・・


「『飛翔工業株式会社』の起工式きこうしきに参加しますよね」


「嫌、いかないよ」


サインした会社の契約書だ。

60%の株主は、俺だ。

残りの40%は、2社が折半。

その2社が製造して、会社も運営してくれるって・・・



「そうですか、仕方ありません・・・日本が世界に売り出す航空機なのに、絶対にトップシア確実なのに・・・もう予約が舞い込んでいるのに」


あ、ヒラヒラとパンフレットが落ちた。

手に取って見ると、飛行場を垂直に飛ぶ重力飛行機の連続写真が・・・


重力飛行機には、翼もない胴体のみ飛行機だ。

安全な高度に達すると飛行する。

全てがAIが自動運転する仕組みだ。

パイロットは、客を安心させる飾りだ。

給油も必要ない。


悪天候でもAIが制御して離陸、着陸が可能。


なによりも製造コストが安い。

メイン装置は、隣の店舗を買取って拡張した部屋でAIによって作られる。


今もライトバンに積み込んで出発するハズだ。


航空会社とは、レンタル方式で引き渡すつもりだ。





田所が「大変です」


「何があった」


「重力自動車の契約者が海へ重力自動車が落下したと、とんでもない理由で廃車申請をしてます」


ああ、海外に高く転売するつもりだ。


「シリアル番号で、追跡して事実が確認出来たら警察に連絡するように、担当は田所に任せる」


「え!わたしが・・・」


旭が田所の足を軽く蹴る。


なにすんのって顔で旭を見る。


「あんた、頼み事があるんじゃーなかった・・・」


「あ・・・・・・」


紙を手渡された。

なんと借用書だ。


「家を買って家族と一緒に住もうと・・・3億円で1億円が足らなくて・・・お願いします」


「師匠、無利子でお願いします」


「分かったよ」


アイテムボックスから1億円を「ポイッ」と出した。


「え!ええええ・・・」


2億も稼いだのに1億円の現金を見るのは、初めてのようだ。

探索者カードでカード決算してるからだ。

俺みたいに現金も持ってないと、何が起きる分からん。


ちなみに『アイテム袋』もギルドから認められている。

田所も持ってるハズだ。



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