第3話 朝食作りますよ?

「お風呂ありがとうございました。」


「別にいいですよ。それじゃあ、私は寝ますね。おやすみなさい。」


「おやすみなさい。」


 会長は自身の部屋の中に消えていった。

 僕も床に寝ころんで目をつむる。

 なんで幼馴染にこっぴどく振られた日に美人な生徒会長に拾われてるんだろう?

 こういう展開ってなんだかラブコメみたいだな。

 まあ、振られ方がひどすぎてラブコメなんて始まりそうにないんだけども。

 なんなら女性不信になりそう。

 というか、当分恋愛とかしたくない。


「ああ。気が重いなぁ。」


 嫌なことを考えてしまった。

 少し胸が重くなるのを感じながら、気づいたら僕の意識は闇の中に落ちて行った。


 …………………………………………………………………………………………………


「天乃君?起きてください。」


「へ?」


 眼をあけるとそこにはとんでもないくらい美人な人が立っていた。


「え!?誰ですか!?」


 というか見覚えのない部屋?

 それにこんな服持っていたか?


「何を言ってるんですか?私ですよ。藤音 紫苑です。昨日公園であってそのまま私の家に泊まったでしょう?」


「あ!そういえば。」


 そうだ。昨日振られてブランコを漕いでいたらこの人に拾われたんだった。


「思い出しましたか?どうやら天乃君は朝に弱いみたいですね。」


「すいません。」


「別に怒ってはいませんが。まあいいです。それよりも朝食にしましょう。」


「いいんですか?ご馳走になって。」


「いいですよ。乗り掛かった舟です。日曜日までは面倒を見ますよ。」


 なんだか申し訳ないけど、今の僕に返せるものは何もないのでお言葉に甘えよう。


「ありがとうございます。」


 藤音さんはすぐに冷蔵庫のほうに向かって少し小さいサイズのヨーグルトを二つ持ってきた。

 まさか、藤音さんはいつもこのような朝食なのだろうか?


「藤音さんはいつも朝はヨーグルトだけなんですか?」


「まあ。家族が出張に行ってしまって私は家事ができないので最近はそうですね。」


「冷蔵庫に食材は入っていますか?」


「一応入ってはいますが何に使うんですか?」


「僕、最低限の料理ならできるので何か作りましょうか?」


「いいんですか!?」


「え、はい。僕のなんかでよければ。」


「ぜひお願いします!最近まともな食事を口にしていなかったので助かります!」


 どうやら、本当に家事はできないらしい。

 まあ、この家の惨状を見るに何となく予想はできていたけど。


「じゃあ、台所お借りしますね。」


「はい。」


 藤音さんにそう断わりを入れてから冷蔵庫の中を見る。

 中身は結構いろいろな食材が入っていてそれなりの料理はできそうだ。


「まあ、朝だし目玉焼きとかにするか。」


 冷蔵庫に卵が入っていたのでそれを使って目玉焼きを作る。

 ついでにベーコンも炒めて同じ皿に盛ってトーストを添えればいい感じの朝食の完成だ。

 もちろんさっき藤音さんが持ってきてくれたヨーグルトも食卓に並んでいる。


「藤音さんできましたよ。」


「あなた、本当に人間ですか?」


 食卓に並んでいる朝食をみて藤音さんが僕をみてそういった。


「いや、そこまで大層なものでもありませんよ?藤音さんのお母さんとかこういう朝食作ってらしたんじゃないですか?」


「確かに、母さんは作っていましたけど私がどれだけまねしてもつくれませんでした。」


 どうやら、本当に家事全般がだめらしい。

 最近家事ができない学生が増えていると聞いたことはあるけど藤音さんはその中でも酷いほうだろう。


「あはは。そうですか。冷めないうちに食べましょう。」


「はい!いただきます!」


 藤音さんは手を合わせて食卓に並ぶ朝食を食べ始めた。

 僕も朝食を食べ始める。

 いつもの味だけど環境が違うからか味も違って感じる。

 そういえば、昔からよく茜にもこうして朝食を作ってたっけ。

 幼馴染の秋風 あきかぜ あかねの両親は朝早くに仕事に行くためよく僕が朝食を作っていた気がする。


「おいしい!天乃君料理がとてもうまいんですね!?」


「そんなことないですよ。幼馴染も家事ができなかったので家事を頑張っていたんですけど、結局捨てられましたしね。」


 自嘲気味な笑いが出てくる。

 こんなこと言っても何も解決しないとわかっているのに言わずにはいられなかった。


「そうですか。なんだかすいません。」


「いえ、藤音さんが謝ることじゃないですよ。それにおいしいって言って食べてもらえるの嬉しいですから。」


 そういえば、最近は朝食を作っても茜には何も言われなかった気がする。

 きっと、普段からやりすぎてになってしまったのだろう。


「そうですか。でも、本当においしいですよ!」


「そこまで言われると照れますね。日曜日までお世話になるわけですしそれまでは僕が料理しましょうか?」


「いいんですか!?」


「もちろん。藤音さんにはお世話になっていますのでこれくらいは。」


「ありがとうございます。ぜひお願いします!」


「わかりました。任せてください。」


 僕の料理をこんなに素直にほめてくれる人は今までいなかった気がする。

 それに、ここまで喜んでもらえると作り甲斐がある。

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