第2話 なんという汚部屋

「ここが私の家。とりあえず上がってください。」


「はい。」


 連れていかれるがままに僕は彼女の家を訪れていた。

 そこに広がる光景は、


「すごく汚い、、、」


 足の踏み場がないような汚部屋だった。

 それはもう形容しがたいほどにひどかった。


「何か言いましたか?」


「いいえ。」


 彼女は学校で完全無欠の生徒会長といわれていたはず、だとしたらこれは夢か。

 どうやら僕は振られて精神に異常がきたしてしまったらしい。

 ここはいったん頬をつねって公園に戻るとしますか!


「痛い。」


「あなた何をやっているんですか?」


 不審な目で見られてしまった。

 というより、夢じゃない!?


「まあ、いいです。で、あなたはこんな時間に公園で何をしていたのですか?」


 彼女は僕にタオルを渡しながら聞いてきた。

 タオルを受け取って体をふきながら僕が今日体験したことを伝えた。

 なんだかもうどうでもよかった。

 それに誰かに話して気持ちを落ち着けたかったのかもしれない。


「そんなことがあったのね。」


「まあ、はい。だから家に帰りづらくて公園でブランコを漕いでいました。」


「つらかったでしょうね。」


「はい。」


 。というより今も辛い。

 また涙が出てきそうになる。


「そういう理由ならしょうがないわね。なら土日はここに泊まっていくといいわ。」


「え?本気で言ってるんですか?」


「私は人に嘘を言うような人間に見えるのですか?」


 冷ややかにそう言われては信じるしかない。


「いえ、そういうわけでは。でも、身の危険を感じたりはしないんですか?僕、一応男ですよ?」


「それは知ってますけど、失恋してこんな時間までブランコを漕いでいるような男がいきなり他の女を襲うとは考えづらいでしょう?まあ、襲ってきたらあなたは社会的に死ぬことになるのだけどね。」


 おっとマジな眼だ。

 そういうところはしっかり考えているらしい。

 ここはお言葉に甘えよう。

 まだ家に帰る気にはならないし、ただで宿を貸してくれるのなら願ってもない。


「じゃあ、お言葉に甘えて泊めさせてもらいます。」


「はい。ところであなたの名前をまだ聞いていなかったですね。」


「すいません。僕の名前は天乃あまの 海星かいせいといいます。」


「天乃くんですね。初めまして。私は藤音ふじね 紫苑しおんといいます。」


 とても綺麗な人だと思った。

 綺麗な紫色の瞳にとても長い黒髪。

 透き通るような声。

 確かに学校で高嶺の花。

 完全無欠の生徒会長といわれるだけのことはあるなと思った。

 まあ、部屋を見るに完全無欠かどうかは議論の余地がありそうだが。


「今日はそこらへんで寝てください。お風呂なら使ってもいいですけど着替えはありませんよ?」


「ありがとうございます。お言葉に甘えてお借りしますね。」


「はいどうぞ。」


 どうやらお風呂を貸してもらえるらしい。

 さすがにびしょ濡れで全身が気持ち悪い。

 お風呂を貸してくれるというならありがたい。


「そういえば、会長ってなんで独り暮らしなんだろう?」


 最近は高校生でも独り暮らしというのは多いものなのだろうか?

 身の回りの人間は大体両親と暮らしていたのでわからない。


「まあ、僕なんかが考えても仕方ないことか。」


 余計な詮索はやめておこう。

 互いに益がないし、そもそも僕と彼女はそんなに親しい仲じゃない。

 そんな奴が家庭の環境をほいほい聞くべきでもないだろう。

 気が変わって追い出されでもしたら目も当てられない。


「あああ。気持ちい。」


 浴槽につかって温まる。

 幸せだ。

 いや、幼馴染に捨てられてるんだから幸せなわけないか。

 むしろ不幸。

 今まで生きてきた中で一番不幸な日だ。

 でも、まさかあそこまで酷い振られ方をするとは思ってなかった。

 完全に都合に良い男扱いされていたなんて気づかなかった。


「はあ、死にたくなってきた。」


 あったまったし上がるか。


「あれ?着替えがある。」


 風呂を上がるとそこには下着と衣服が置かれていた。

 勿論男性用。


「これ着ていいやつかな?」


「大丈夫ですよ。」


 扉越しに会長の声が聞こえてきた。


「ありがとうございます。」


 出所は気になる下着だが気にしないでおこう。

 あんなに可愛い会長のことだ。

 彼氏の一人や二人いてもおかしくはない。

 はあ、幸せそうでいいな。

 そう考えると自分がみじめで仕方なくなるので考えないようにしよう。

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