揺らぐ正義<後編>
−−街の外れ
「こんな所に廃墟があるのか」
街の外壁を出てしばらく歩いた所に廃墟があった。こんなに近くに住処があれば街の中にやすやすとゴブリンが入ってきても何の不思議もない。一番意外だったのは今まで誰も手を付けずに放置されてきたということだ。これだけ近い場所にゴブリンがいればもっと街中に被害が出てもおかしくないはずだ。最近になって住処ができたのだろうか?
「他にも廃墟があるがここに間違いないんだよな?」
「
二人は廃墟にある地下へと続く階段の前で立ち止まった。
「よし、ゆっくり降りていくぞ」
和司と弘也はゆっくりと階段を降りていった。地下に行くにつれて辺りが暗くなるのかと思いきや意外と明るい。ゴブリンたちが松明を付けているらしい。おかげで階段を踏み外す心配はなかった。階段をしばらく降りた先に広間が見えてきた。二人はその手前で立ち止まった。どうやらそこがゴブリンの住処らしい。20体程のゴブリンが確認できた。
「どれが
「カズ。あれ見てみろ。奥にいる奴」
よく見ると首にペンダントをぶら下げているゴブリンが奥にいた。
「スケッチで書いたペンダントと特徴が一致するな」
「あいつか。よし、突入するぞ」
弘也は中に入ろうとした和司の肩を掴んで行くのを止めた。
「ちょっと待て。いくら何でも丸腰で行くのは無理あるだろ」
「じゃどうすんだよ?」
弘也は辺りを見回した。何か武器になりそうな物・・・。
「これならどうだ?」
手にしたのは松明だった。長くもなく短くもない。警棒より少し長い位だろうか。
「これなら何とかなりそうだな」
「じゃあ、せーので行くぞ」
「よし、せーの!突入!」
「早い、早いよ!」
突然人間が現れた事に最初は混乱し、次に興奮して武器を取って立ち上がった。
広間と言ってもゴブリンが素早く動くには狭い上に集団でいることが災いし、すばしっこい特徴を活かすことができないでいた。
和司は向かってくるゴブリン相手に松明を振り下ろしていく。弘也も退路を絶たれない様に後から援護する。
十数分程経ったろうか、辺りには倒れて立ち上がるのもやっとというゴブリン達で埋め尽くされた。残されたのはペンダントをぶら下げたゴブリンのみだった。
「殺人の容疑で逮捕する」
和司は手錠を出してゴブリンを壁まで追い詰めた。しかし、ゴブリンもあきらめが悪かった。和司の肩に飛び乗り、そのまま入口の方に走り去ろうとしていた。
「あ、待てっ!」
和司が振り返った時だった。広間の入り口から灼熱の炎が広がってくる。炎が収まった後には
「おい。やめろよ」
それは和司と弘也にとっては凄惨な光景だった。剣で貫かれる、首が飛ぶといった光景を間近で見る事になるとは思いもよらなかったのだ。二人は何もできずにただ立ちつくしていた。
「こいつで最後!」
我に返った和司と弘也の中にあったのはモンスターとはいえ犯人を殺されたという強い怒りだった。
「お、こいついっちょ前にペンダントぶら下げてやがる。お宝ゲット〜」
ゲラゲラ笑いながら
「待ちな」
和司が低い声で
「そいつを回収するのが俺達の
「けっ、まぁいいさ」
「撤収するぞ」
「・・・被疑者死亡か」
和司は唇を噛んだ。
結局、父親を殺したという犯人のゴブリンは死亡したものの、もう一つの目的だったペンダントは取り返したので、それをレオナに返却した。
−−ギルド
「はい、報酬の500ゼガです」
「ところで同じゴブリンの住処で他の冒険者に出くわしたんだけど、
ギルドマスターはしばらく考え込んだ。
「ん〜、冒険者が
「そうなのか・・・。こういう事がこれから何度も起きるって事か」
和司は溜め息をついた。
−−酒場・フォンストリート、二階の宿
報酬の500ゼガを使って二人は宿を取る事にした。宿代は一日30ゼガ。報酬の総額から考えると安い。
「ところで何でヒロと相部屋なんだよ?」
ベッドの上で腕組みをしながら不満そうにする和司は仕方なさそうな顔をする弘也と向かい合っていた。
「どこも満席なんだ。外で寝るよりマシだろ」
「プライバシーがないのかね、この世界には」
そう言い放って和司は背中を向けてベッドに横になった。弘也も背中を向けて横になる。
しばらく沈黙が続いて和司が口を開いた。
「なあ、俺達間違った事をしてるのかなぁ?」
「ゴブリン達の一件の事気にしてるのか?」
和司の脳裏にゴブリン達を蹂躙する冒険者が浮かんでいた。
「この世界じゃ俺達の正義は通用しないのか?」
和司の目に悔し涙が滲んでいた。
「分からないけど、俺達は俺達の信念を貫くしかないんじゃないか」
「だよな・・・」
そのまま二人は眠りについた。
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