第23話「ひとめぼれからの進展」
「カロルに話を聞くうちに、花を育てることが趣味になった。花を見てどんな風に笑うのか想像してね」
時々虫を忍ばせてみたが、カロルの話を聞く限り、手に届く前に自然にかえされていただろうと、アルベールは楽しそうに思い出話に花を咲かせた。
「たまに君を見に行ったけど、俺は意気地なしでね。敷地を越えることが出来なかった」
「――っアルベール様は意気地なしではありません! とても勇気のある方で、凛々しくて、目を離せないくらいに惹かれてしまうほど……!」
そこまで言葉を連ねたところで、封じようと思っていた気持ちがあふれ出したことに気づく。
後悔したときにはもう手遅れで、アルベールがニヤッと笑って黒髪をいたわるように撫でた。
「まぁつまり、君への片想いを拗らせていたわけだ。話したこともないくせに、カロルを通じて君を知った気になっていた」
額や頬にやさしいキスの雨が降ってくる。
悲しみに泣くはずだったのに、唇を湿らすほどに甘さが頬を伝った。
「カロルが亡くなってようやく線を越えた。……想像のなかに生きていた君の手をとって、恋がはじまった」
どうしてこの髪色を見て、血のような赤い瞳を見て、恋だと言うのだろう。
(あぁ、そっか……。これが誰かの幸せを願うやさしい心なんだ)
カロルが私の幸せを願ってくれた。
花を通じて私とアルベールを繋いでくれた。
アルベールが育てて、カロルが色を魅せて、花からたくさんの愛の言葉をもらっていた。
《愛の魔法》になんて頼って、アルベールと向き合わなかったことをようやく本当の意味で恥じた。
好きになった人が魔女だと差別するような人だったら、最初から好きになっていない。
あのどこまでも続く広い空に抱かれたくて、私は鳥になって北の塔にから飛び出した。
上も下も、右も左もバラに溢れている。
この時期に届くバラは色を変えて、私の心を癒していた。
ずっと届けられていた愛に、舞い上がる花びらに混じって光る粒をのせていた。
『レティシア様。どうか幸せになることをあきらめないでくださいね』
今なら答えを出せそうだ。
幸せってなに……かはもう痛いくらいに知った。
私は今までカロルに愛されて幸せだった。
カロルの愛情がアルベールに繋がって、私は溺れるような恋をした。
「すき、です……! アルベール様が好き。私、こんなにもたくさんの幸せをもらって……。まだ欲しいと想うくらいにアルベール様が好き!」
嗚咽をあげながら、私は手遅れな恋情を好きな人に告げた。
熱い想いに恋をせずにはいられない。
指をからませて、恋しいと身体を押し付けてしまうくらいには重症だ。
(あきらめてないよ。だってはじめから幸せだったんだから)
「このまま好きでいてもいいですか? あきらめなくていいのですか?」
(アルベール様を好きだと言える私を好きになりたい。自信に繋げたいの)
「うん。……なにを誤解しているかわからないけど、俺は最初から伝えていたつもりなんだが」
額に張り付いた黒髪を指で横に流し、チュッとリップ音を鳴らす。
涙となってあふれた感情を親指の腹でぬぐうと、耳元でそっと花をささやいた。
何度も伝えられたと私は満たされる想いにはにかんでアルベールに擦り寄るのだった。
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