第17話「どうせなら魅力的な女性になりたい」

明るくハツラツとした声の呼ばれ、本を閉じると乱れた髪を抑えながら振り返る。


品のある濃紺のクラシック調ワンピースを着こなすエレガントな女性・オリアンヌが身を乗り出すような姿勢で頬を染めていた。


なんの気配もなかったと驚き硬直していると、オリアンヌは私の手におさまる本を奪い取り、空に持ち上げてじーっと凝視する。


背伸びをしてもオリアンヌのすらっと長い身長に手が届かず、もたもたする私にオリアンヌは意地悪く笑った。


「レティシアちゃん、エレストール国に興味があるの?」


「エレストール……?」


「魔女の国よ。実在するかはわからないけど」


ひょいと持ち上げられていた本を戻され、オリアンヌがやや憂いた微笑みで私の黒髪を撫でる。


「結界でおおわれているらしいよ。魔女はいるからそういう国があってもおかしくないわね」


「……魔女って、この国ではどのくらいいるんですか?」


王妃が徹底して身を隠し、前王妃を魔女に仕立てるほどだ。


私が北の塔に押しやられなければならないほど、この国で魔女の地位は低い。


なぜそこまでして魔女は嫌われるのか、魔女として生まれたからには避けては通れないと本を胸に抱いた。


「ほとんどいないでしょうね。今はそんなことをしないけど、昔は魔女とわかればすぐに殺されていたから」


「どうして殺すなんて……」


「人は魔法なんて使えないもの。同じ見た目で、ありえないものを見たらどう思う?」


抱くのは恐怖だろう。


想像して、おびただしい量の汗がふきだし、どうしようもなく口が渇いて地面を見下ろした。


人の営みを一転させてしまうほどの力を危険視して、優位に立つために魔女そのものを排除しようと防衛に走った。


だんだんと過激になった争いは魔女が世の中から引っ込んで、舞台から去ったことで終止符を打った。


少なくともエステティア王国に魔女はいないはずなのに、前王妃が魔女を産んだと判明して国はピリピリしているとオリアンヌはためらいがちに語った。


「正直、塔に閉じ込めなきゃいけないくらい魔女は恐ろしいものと思ってた。でも全然、怖くない。むしろ心配なくらいね」


ニヤッと笑うオリアンヌは勇ましささえ表情に現れている。


堂々とした立ち振る舞いはアルベールとよく似ていると、恋しさについ口角が緩んだ。


クスクスと笑い出す私にオリアンヌは目を輝かせ、本を奪い取って棚にしまうと強引に手を引いた。


「もっと日の当たるところにいた方がいいわよ!」


「日の……」


「まぁ、アルベールは花を愛でるのが趣味だからレティシアちゃんがかわいいんでしょうけど。男は尻に敷くくらいがちょうどいいわ」


尻……と目を点にしていると、腹を抱えてオリアンヌが笑い出し、軽快な足取りで図書館から私を引っ張り出そうとする。


どうにもこうにも、アルベールにもオリアンヌにも引っ張られてばかりだとその強引さに陰鬱な心は晴れ模様となった。


***


「……これは」


図書館を出て、もっと軽装をしてこいとオリアンヌにめくりめくられて、なぜか王宮の広場に出て竹刀を握らされている。


オリアンヌもパンツスタイルとなり、夕日色の髪を大胆に高く結って腰に手を当てていた。


ドレス姿ではフリルや装飾品で目立たなかった曲線美がはっきりとしてまぶしいとオリアンヌを直視出来なかった。


「もっといろんなことを経験して、レティシアちゃんがどうやって生きたいのか考えないと」


そう言ってオリアンヌは背筋を伸ばし、ブレのない真っ直ぐさで竹刀を振った。


ブォンと風が巻き起こり、オリアンヌの華やかな髪が波打っていた。


なんと凛々しくて、目を輝かせて前へ突き進む高潔さがあるのだろう。


目を奪われて、どうしようもなく胸がくすぐられて、うずうずに耐え切れず竹刀を握りしめる。


勢いだけで一心不乱に竹刀を振り上げた。


「えいっ!」


ヘロヘロの風が情けない音をたてたが、音のとおり砂利さえも動かないくらいにか弱い振りだ。


オリアンヌの風と一体になる強さは欠片も真似できないと、やけくそになって竹刀を何度も振ってみた。

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