第10話「女同士が一番手厳しいもの」

好きなことに素直になるのは苦手。


言葉にしてみると少し不思議な感覚だった。


花が好き、それはカロルが毎日私の世界を彩ってくれたから。


それ以外に私が好きと言えるのはなんだろうと考えた時、空が好きだと頬を染めた。


晴れやかな日、曇った日、泣いている日、寄り添う星がまたたく日。


空は表情豊かで、いろんなものが見えた後は必ず光を照らす青空が広がった。


とても素直な空だと心地よい風を浴びながら。嘘ひとつない爽やかさに穏やかさを知った。


(アルベール様は空のような方)


魔法で心を捻じ曲げてしまったが、私がアルベールに向ける心はまっすぐで本物だ。


叶わぬ恋とわかっていても、あきらめるばかりの恋は嫌だと肩を引く。


愛されるはずがないのだから、せめて愛することは許されたい。

――本当は愛されたいくせに。


いつか胸を張ってさよならが出来るように、愛に生きてみたいとかすかに呼吸を震わせながら空を見上げた。


せめて隣に立ってもおかしくないレディになろう。


好きだと告げてもいい女性にならなくては、好意を抱くことさえアルベールに失礼だ。


返ってくるのが拒絶だろうと、それがちょうどいいと皮肉交じりに笑った。


ありえないことが起これば信じられないもので、疑いの目を向けて怯えるだろう。


答えがわかっているからこその安心というものが私を突き動かしていた。


「レティシア様にお会いしたいという方がいらっしゃってます」


義務として騎士が扉を見張り、メイドが嫌々に私の身の回りの世話をしてくれるが、一言も話さない。


一度おずおずと声をかけてみたが、暗黒王女とはかかわりたくないようで突き放される態度をとられてしまった。


今も義務的に頭を垂れているが、決まりきった日常にふしぎな言葉だと首をかしげた。


「だ、誰が来たの?」


「ルコント伯爵令嬢です」


頭の中に叩き込んだ貴族名簿を引っ張り出す。


ページをめくるまでもなく一致した人物に私は複雑になって頬の筋肉が強張るのを感じた。


(オリアンヌ様だ。どうして? この前のことを怒りに来たのかしら)


起きてもいないことに震えていても、未来は変わらない。


オリアンヌははっきりとものを言うため、単刀直入に叱咤して終わるだろう。


逃げていてもオリアンヌとの関係は変わらないと、怯える気持ちをぐっと抑え込み会うことにした。


応接室に行くと、オリアンヌがスマートなドレスに身を包み情熱的な髪をコンパクトなまとめ髪にしていた。


お互いに簡単に挨拶をすませて、私はオリアンヌの向かい側のソファーに座り込む。

紅茶が出てきても気が気でなく、喉を通らなかった。


覚悟を決めたわりにびくびくする私にオリアンヌはあからさまに目立つ息を吐く。


「先日のことですが」


クッション的な会話もなく直球だと肩をすくませる。


色は違っても見透かすような眼差しはよく似ていると唾を飲み込んだ。


「ごめんなさい。ずいぶんとキツイあたりをしてしまったと反省してるわ」


「……えっ?」


オリアンヌが膝に両手を重ねて深々と頭を下げている。


夕日色の髪がさらりと流れ、伏せられた長いまつ毛に心臓がバクバクと音をたてた。


「顔をあげてください! 全部本当のことですから!」


「だからそれが腹立つのよ!」


ハッとすぐにオリアンヌは口元に手をあて、目を反らす。


ちぐはぐな態度に私はオリアンヌを凝視し、それにいたたまれないとオリアンヌは身体を揺さぶって一度咳をした。


「別にアルベールと恋仲なのはいいのよ。あたしはそうやって自分を卑下する姿が嫌なだけよ」


オリアンヌの言っている意味がわからず、私はぽかんと間抜け顔をするばかり。


ついにオリアンヌはやけくそになって立ち上がると、私のとなりに座って頬を強く引っ張った。


ジンジンと痛む頬に涙目になるも、オリアンヌを突き飛ばせずにいればより一層強くなり頬が赤くなる。


このままでは口裂け女になってしまうとオリアンヌの手首をつかんで足をばたつかせた。

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