第27話

《Side メイカ》


 ミヤビ組の全てが終わった。違う、私が終わらせたんだ。

 荒れた戦場を見回す。死体がゴロゴロと転がっており、地獄絵図と化していた。生きている者も数少ない。

 騎士も、ミヤビ組の組員も、忘我団の奴らも、皆等しく死んだ。何でこうなってしまったんだろう。

 原因を考えても分からない。私は首だけになってしまった坊ちゃんの顔を手にする。きっとこいつが情報を流したんだろう。代わりに身の安全を確保しろ、とか言ったんだろうな。だからあの場には騎士共がいた。


 足元にある死体はつい昨日まで話していた組長だった。何故かその顔は穏やかだった。

 初めて出会った時からこの御方は不思議だった。でもその不思議さと決断力の高さ、何よりもそのカリスマ性に惹かれた。

 彼の為だったら死んでもいい。そう思いながら私は戦い続けた。


 色んな記憶が蘇ってくる。ミヤビ組での日々。それはきっと色鮮やかだった。血と臓腑に塗れていたけど、それでもあの日の闘争が、殺し合いが、語り合いが、とても楽しかったんだ。


 それに私は初めて背中を預けてもいいと思える人にも出会えた。

 彼の放つ雰囲気は何と言うか、組長と似ていた。不思議な、でも何故か惹かれるそんな雰囲気。


「……ん?」


 と、不意に忘我団の本拠地の入り口に人影が見えた。あのシルエットは間違いない。

仮面だ。


私は仮面に近づこうとして─────さっきの出来事を思い出して動きを止めた。彼は人じゃなく、化け物だと、さっき知ったばかりじゃないか。

あの目……間違いなく竜眼だった。


「……そうか」


 その時、私は確信した。この原因を引き起こした元凶を。

 裏切られた。その感情が私の心を支配する。


「……そうか……っ!」


 私はさっき覚えたばかりの強化魔術を使い、残り少ない魔力で体を強化する。ミヤビ組を壊滅まで追い詰めた真の元凶─────仮面を殺すために。


「仮面ッッッ!!!」

「……」


 血管が浮き出るほど剣を力強く握る。怒りが、私の中を支配する。


「裏切り者が!」

「……」


 なんで、何も言わない……!何も言ってくれないの……!?

 私は彼目掛けて剣を振り下ろす。それを仮面は半歩下がって、剣を踏みつけた。


「っ!?」

「……」


 動かせない……。いくら体を強化しても、まるで岩を持ち上げるかのように剣が重かった。


「何か、言ってくれないの……ッ!?」

「……」

「っ、何か、何か言ってよ……!じゃないと、私は─────」


 その時、腹に強い衝撃が走った。すぐに彼が私を殴ったことは分かったが、その威力に耐え切れずに意識を失ってしまった。


「……起きて」

「……ん?」


 体を揺さぶられてゆっくりと意識を覚醒させる。ぼやけた視界で、最初に見えたのは─────鎧だった。


「っ!?」

「おっと」


 それが見えた瞬間、私は飛びのいて警戒する。そこにいたのはあの時部屋にやってきた騎士だった。その手には─────


「っ!?」


 バラガルーザの首があった。私は息を飲み、固まってしまった。

 私が何を見ているのか気付いたのか、彼はバラガルーザの首に目を向ける。


「あぁ、これ?ミヤビ組の目当てを奪った形になっちゃってごめんね」

「そ、それは別にいい……それよりも」

「ん?」

「この惨事を、どう片付けるつもり……ですか……?」


 私は聞きたかった。ミヤビ組、そして忘我団を領主はどうしたいのか。どのように処理したいのか。

 皆殺しだったら私はどんな手を使ってでも抵抗する。だけどそうじゃなかったら─────


「ああ、そんな事か。今回のは騎士の方にも多大な犠牲が出てしまったし、忘我団とミヤビ組はトップが死んだ」

「……」

「多分領主は今回何もしないんじゃないかな。どころかこれからここら一帯を潰そうとはせず、社会環境の整備が始まると思う」

「は?」

「僕は裏社会を取り仕切っていたミヤビ組を重要視していてね。正直認めたくはなかったけどミヤビ組があったお陰で裏社会にも多少の統制が敷かれていた。でもそのミヤビ組が消えてしまった以上裏社会が荒れるのは必須。領主はそれを危惧しているんだよ。ここらって裏社会の巣窟だったからね。嬉々として掃除をし始めるんじゃないかな」

「……そう」


 それを聞いて、もうミヤビ組は本当に終わったことを、私は察してしまった。



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