第25話

《第三者視点》


「……レイズ、貴様」

「お父様。僕はあなたが嫌いでしたよ」

「……」


 メイカは目の前の光景を素直に受け入れられなかった。時期組長として育てられ、ミヤビ組の希望として期待されていたレイズが、まさか反旗を翻すなんて。


「組長ッッッ!!!」


 叫んだメイカはさっきできたばかりの魔力で体を強化する術─────強化魔術を使い一気に駆け出した。

 彼女が通過したところは敵味方関係なく殺されており、今の彼女を止められるものは、レイズの周りにいる騎士だけだった。


「っ!」

「どけっ!!!」


 鬼気迫る表情が彼女の端整な顔を歪め、その姿はまるで鬼そのものだった。鍔迫り合いをしていた騎士が遂に彼女の力に耐え切れずに横に吹き飛ばされる。

 そんな彼女に立ちふさがるようにして一人の騎士が応対するも、


「くっ!?」

「邪魔だああああ!!!」


 数秒と持つことはできずに、斬り伏せられてしまった。そこで彼女は初めて組長を刺しているレイズの顔を見る。その顔は凶悪そのものだった。


(あの顔……やはり腐っても組長の息子か……!忌々しい!)


 彼一人の力ではきっと組長と相対しても殺されるだけだ。じゃあなぜこのような事が出来たのか。間違いない。


(騙し打ち……!そうか、奴は組長の厚意に付け込んだ!)


 メイカはそう解釈した。もうこんな混沌と化している今、あまり理由は必要ないかもしれない。だが、今の彼女には自分の上司の息子を殺すだけの理由が欲しかった。


 彼女の目に映るレイズの顔が一瞬、せせら笑う悪魔のように見えた。人の不幸を笑う、悪魔のように見えた。


「……っ」


 今まで散々人を不幸にしてきたミヤビ組にいる自分がそのように見るのは間違いだと気づきながら、最期はこんな少年の手で迎えること。メイカはそれが許せなかった。

 ならば─────せめて自分の手で。


「ははは、これでミヤビ組も終わりだ……!本当に汚らしいクズ共の最期にはお似合いだな」

「……」

「お父様、いや、ミヤビ組組長ザンカ。自分の息子に引導を渡されて今どんな気持ちだ?悔しいか?悔しいだろうなぁ?」

「……」

「自分の手で悪を成敗するのは何と気持ちの良いものだな!」

「……ふ」


 気分が昂っているのかべらべらと喋るレイズに、組長ザンカは馬鹿馬鹿しいと鼻で笑った。

 それが聞こえたんだろう、レイズはすぐに反応した。


「……何がおかしい」

「……俺はそんな風にお前を育てた覚えがない、と思ってな。可笑しくなっただけだ」

「いいや、僕はあなたに育てられた。間違いなく。その結果がこれだ」

「自分一人で何もせずに、他の人の手を沢山借りて、それを自分の手柄と嘯くことが、か?」

「……なんだと?」


 死にかけの男の言葉に耳を傾ける訳がないと思っていた彼はその言葉だけは無視できなかった。


「僕が……何もしていないとでもいうのか?」

「間違ってるのか?その剣は誰のだ?ここまで状況を運んだのは誰だ?今仮面─────竜眼と戦っている騎士、あのバラガルーザ以上の実力者と言われている史上最強の騎士、シンが全て計画したんじゃないのか?」

「何を言って……!」

「俺はお前によく言っていたはずだ。─────組むべき仲間は慎重に選べ、と」


 その時、レイズの後ろから強烈な怒号が響く。


「レイズぅぅぅぅぅぁぁぁあああああああ!!!!!!」

「ひっ!?」


 ここで初めてレイズはメイカの顔を見て、彼女の放つ怒りに顔を引き攣らせた。

─────このままでは殺される。

危機感を感じたレイズは腹の底から叫んだ。


「き、騎士の皆さん、か、彼女を殺して!」

「「「「……」」」」

「お、おい!早く僕を助けろよ!?」


 だがいくら叫んでも動こうとしない騎士の姿を見て、ここで初めて彼の中で焦りが生まれる。


「早くし─────」

「遅い!」


 騎士の対応もままならないまま、レイズは組長を刺していた剣を腹から抜き、既に振り下ろされていたメイカの剣を何とか弾こうとする。

 だが彼はまだ子供で。彼女は魔力で強化された大人だ。

 その結果は誰から見ても明らかだった。


「あっ!?」


 腰の入っていない剣は彼女の強烈な一撃を受け止めることなんて出来る訳がなく。彼の持っていた剣はあらぬ方向へと飛んでいった。

 守るものが無くなった。何故か知らないが周りの騎士は自分を助けようとしない。

 話が違うじゃないか。この契約は自分を守ることも入っていたはずだ。なのに騎士共はこの僕を助けようとしない。


 目の前に鬼が迫る。今まで見てきた彼女の優しい笑みではなく、ある日初めて見た敵を見るその顔が、自分に向けられる。

 自分を助けるために戦ってくれた彼女の剣が、今度は自分を殺すために向けられている。


 その事実が、彼を震え上がらせた。


「や、やめ─────」

「死ね」


 そして命乞いをする暇もなく、レイズと、その奥にいたザンカ、そして周りを囲んでいた騎士全員の首を刎ねた。

 その刀身は魔力で伸びており、彼女はそれに気づいていなかった。



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