第24話

《第三者視点》


 一方その頃。

 ミヤビ組の用心棒、メイカは急いで忘我団の本拠地の外に出た。目的は騎士の襲来とためである。


(あいつが、あんな化け物だったなんて……!)


 あの時はまだ大丈夫だったが、いざあの目を見てしまうと心の底から湧き出る恐怖に耐えることができなかった。

 彼は人じゃない。人の姿をした化け物だ。

 メイカはもう、彼を人として見ることが出来なくなっていた。



 彼─────ユウゴと出会ったのはそれこそ彼がミヤビ組に雇われ始めてからだった。彼の存在はこの組の中でも異質だった。

 常に仮面をつけている為どんな表情を浮かべているのか全く分からず、最初は不気味な野郎と言う印象を持っていた。

 だがある日とある仕事で、仮面を連れて行け、と組長から直々に命令が下り、メイカは渋々それを受けた。


 屋敷にいる組員に仮面の居場所を聞き、その場所に行くと、そこには丁度坊ちゃんと別れたばかりの彼がいた。

 

 突然現れた彼女に仮面は戸惑ったままその場に立ち止まる。


「メイカよ。お前を連れて行けって、組長が」

「え、俺坊ちゃんの護衛なんだけど」

「他の人を当てるから心配ないわ」

「あっそ。んじゃ行くわ」


 ……決めるの早っ。それにそんな軽いノリで言われても。


 そう言った戸惑いが彼女の中で広がる。微妙な表情を浮かべていたんだろう、仮面はそれに気づくと、


「こういう感じなんだ。諦めてくれ」


 と、フォローともいえない何かを言われ、彼女は更に困惑した。


 ……本当にこいつで大丈夫なんだろうか。


 彼女は果たしてこいつと連携を組めるのかと、心配になってきた。



 だが実際始まってみると、その心配は杞憂だった。

 今回の仕事は小規模の盗賊団を潰すというもので、これは本来だったら治安維持だなんて言いながら仕事をこなす騎士や、金ズルだと言いながら嬉々として向かって行く冒険者が行うもの。ミヤビ組の本来の仕事じゃない。

 そもそも、ミヤビ組が街の治安の為に動くようなことは無い。だからこそ、メイカはこの仕事内容を言われた時物凄く困惑した。

 だが組長の後に続いた説明で彼女は納得した。


「こいつらはなぁ、俺らの名を騙ってんだよ」

「成程」


 要は報復。嘘つきにはそれ相応の清算を奴らに払わせる。それが目的だと、組長は言った。

 ミヤビ組がチンケに見えるだろう、とも。ネームバリューは特に大事なのだ。


 そう言う事なので、メイカ一人でも問題ないはずなのだが、何故か組長は仮面を連れて行けと言った。

 それが如何に的確なものだったか、今彼女は実感していた。


「こっちだ」

「……はい?」


 アジトがあるとされる森の中に入った直後、彼はとある方向に指をさしていた。最初どこに向かって指しているのか理解できなかったメイカだが、彼がずいずいと進んでいったため、慌てて彼の後を追った。


「一体どこに向かって」

「アジト」

「はあ?」

「目的の場所だろ?盗賊団の」

「……何であの一瞬で分かったのよ」

「元冒険者の経験則」


 それを最後に彼は何も言わなくなった。彼の顔は真っすぐ先を見据えていた。それを見てメイカはこれ以上言っても無駄だと悟った。

 

 そうしてしばらく進むと、


「……本当にあった」


 元々言われていたアジトの特徴と一致している。彼女はもっと時間がかかると覚悟していたために、こうも簡単に見つかってしまうと、その覚悟の行方が分からなくなった。


「早く潰そう。帰りたい」

「え?あ、うん」


 そんな戸惑いを他所に、彼はずんずんと進んでいき─────突然姿を消した。


「っ!?」

「があああああ!?」


 気づいたら彼の姿がアジトの入り口で警戒していた男を斬り捨てていたのだ。


「……ああもう!」


 彼女は悪態をつきながら走り出す。その顔は少しだけ嬉しそうだった。



 そんな過去の出来事がふと思い出される。

 今まで一緒に行動していた仲間が化け物だった。それも飛び切りの。その事実をメイカはまだ受け入れることができないでいた。

 だが、彼女の中に恐怖以外の感情が浮かんできていた。


(彼は化け物……彼は、化け物……彼は……)


 頭を振って何とかぐちゃぐちゃになった思考を散らす。今は自分にできる事をしなければ。そう思いながら外に出ると、


「な、なんでここに騎士共が!?」

「死ね!ゴミが!」

「死んでこの世の役に立て!」


 何人もの騎士が自分の仲間を殺す光景が、彼女の視界に映った。そしてその奥には、



「……ちっ」



 ─────腹を剣で突き刺された組長と、その剣を握りしめている組長の息子のはずのレイズの姿があった。



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