第22話
「がはっ!?」
バラガルーザは突然襲ってきた痛みに驚き、向かってきた速度そのまま地面を転がった。奴は何が起きたのか分からないと俺に目で訴えてきた。
「何が、起きて」
「単純だ。俺が避けて顔目掛けて斬った。お前は前傾姿勢だったからな、斬りやすかったが少し手先が狂ったようだ」
「なっ!?」
驚いた目で見てくるバラガルーザに対し、俺は無言で剣を振り下ろす。奴は慌てて転がり避けると、さっきと同じスピードで元居た場所に戻った。
逃げ足を目で追うことはできなかった。相当焦っていたんだろう。額から冷や汗と共にスーッと血が垂れ落ちる。
「は、はあ、はあはあはあはあ……!」
「相当焦ってんな、おっさん」
「う、五月蠅い……!」
息を切らしながら再度剣を構えるバラガルーザ。さっきまでの余裕は何処に行ったんだろうか。いや、体力はあるんだろう。奴の魔剣は十全に効果を発揮できていない。
ここで初めて、奴は俺の竜眼に恐怖を抱きはじめているんだ。
「メイカ」
「何」
「もちろん動けるな」
「……さっきみたいな動きってこと?」
「魔力で強化するなりして俺の動きに合わせろ」
「はあ!?そんなの魔術に精通している奴しか─────って!」
俺は彼女が言い切る前に地面を蹴った。だがバラガルーザが出したような速度なんて俺に出せる訳がない。あれは魔剣の力に加えて魔力で体を強化して初めて出せる速度だ。
俺にできる事は素の身体能力だけで奴の攻撃を全て捌くこと。
竜眼の未来予測効果が切れるまで、後2分。きっとこの後起きる数合の斬り合いでこの戦いの全てが終わる。俺たちはきっとそう確信していた。
「死ね!」
「っ!」
ここで俺たちを仕留めると決めたのか、早速閃光が俺目掛けて放たれた。だが視える。俺は永遠と後出しじゃんけんに、それも手が光のように瞬時に変わるこのゲームに勝たなければならないが、手が視えるなら対応できる。
脇腹に向けられた刃をサイドステップで躱すとともに剣を逆手に持ち、壁を蹴り目の前に来たバラガルーザの肩を斬り付ける。
もう少しで体に深く入ると言うところでグイン、と奴が体を大きく捻る。だが切傷は付けれた。その痛みにほんの一瞬だが奴は動きを止めた。
それを─────彼女が見逃すわけがなかった。
「ぐうっ……!?」
剣を持っていた腕が遂に切断された。それを成したのはこの場で俺が言った無茶ぶりを見事成功させたメイカだった。
「……やっと、追いついた」
「よく見えたな」
「……強く踏み込んでたから、それを見て何とか……」
「へぇ、凄いな」
俺もメイカも体中について傷のせいでかなり出血してしまっている上に体力も心許ない。だが何とかバラガルーザを倒すことができた。
……できた、よな?
「がっ……ぁぁああ、まだだ、まだ」
斬られた腕を押さえて蹲るバラガルーザはもうこれ以上戦えないように見えるが、闘志が燃え尽きていない。その目の奥にある炎がまだ消えていない。
一体なんで彼は騎士を追放されたんだろう。ワイズの名を出した時に、まるで奴がしでかしたことが分かっていたとでも言わんばかりの歓喜の声を上げていた。
もしかすると、こいつも領主を裏切ったのだろうか。こいつが言っていたことから逆らえない血の定めが信用する者を裏切るという行為だと言うことは分かった。
だが忘我団を作った理由が分からない。まだこいつは騎士道を諦めていないのか……?ここでそれを聞いてしまえばこの些細な疑問も解消されるだろう。納得するかどうかは別として。
しかし俺たちは忘我団を壊滅させるために来ているのだ。そこまで首を突っ込む必要はないし、然程興味がない。ちょっと気になる、その程度だ。
俺とメイカは警戒を続ける。頭の片隅ではもう必要ない、と思いながら。
だが結果で言えば、俺たちの判断は間違っていなかった。
異様な気配がこの部屋の周りに出始める。この気配は忘我団に入った時には感じなかったもの……つまり新手の存在。
バラガルーザが壊した出入口から、一人の男が姿を徐々に見せ、消えた。だが俺の竜眼はその正体をしっかりと捉えることができた。
「─────っ」
「おや」
打ち払うために剣を振り下ろすと、強い衝撃が剣を伝って返ってきた。振り上げでもこの威力……移動速度はさっきのバラガルーザほどではないが、それでも速い……!
俺の前まで来た男─────新手の騎士サマはまさか対応されると思ってなかったのか、軽く驚いていた。
「まさか、受け止められるとは……流石は仮面さんだね」
「……何でいるんだよ、騎士サマァ」
そこにいたのは、ある日のように人の好さそうな笑みを浮かべる騎士サマだった。
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