第20話

「無敵、バラガルーザ。私も子供の時に聞いたことのある名前よ。領内では全戦無敗の史上最強の騎士……なんて呼ばれてたかしら」

「へぇ」


 全戦無敗……それだけ聞くと相当な実力の持ち主だ。だがきな臭い。

 普通だったら、そんなことあり得ない。何かそこに裏を感じざる負えないな。俺がここに来てまだ二年ちょいしか経ってないからかもしれないが。


「さ、そんな無敵な騎士サマに敗北を刻みに行きましょう?」

「そうだな」


 軽いノリで俺たちは本拠地の奥へと進んでいく。道中潜んでいた敵に襲われたりもしたが、俺としてはカモ雑魚ネギ奪える剣を背負って歩いて来たようにしか見えなかった。

 自分は忘我団の幹部だ!とか叫んでた奴もそれほど強くなかったし。やっぱり忘我団って“無敵”のワンマンチームだったんだなと感じる瞬間だった。

 だが持っていた剣は中々のものだったので一応拝借しておいた。もしかしたら使えるかもしれないし。


 そうして俺たちは本拠地最奥の、バラガルーザのいる部屋の前までたどり着いた。

 俺はドアノブに手をかけようとして、


「「っ!」」


 二人そろって勢いよく後ろに飛ぶ。

 そしてドアが大きな音を立てて崩れ、俺たちの横を銀の煌きを放つ斬撃が通り過ぎた。

 その斬撃の威力は計り知れず。今の俺だったらすぐに死んでいた。

 これが全戦無敗の実力……。


「来たか、ミヤビの雑兵め」


 それを成した男は部屋の奥にて振りぬいた剣を構えなおした。俺たちを戦うべき敵だと認識したらしい。老人のくせに何という威圧感。

 メイカもそれを感じ取ったのか、顔中酷い汗をかいていた。


「……凄い圧」

「臆したのか?メイカ」

「何馬鹿な事を」


 鼻で笑った彼女は立ち上がり、剣を鞘から抜く。その姿は勇ましくなんで裏社会の用心棒なんてやってるんだろうと思ってしまうほど、美しかった。

 俺も彼女に負けぬよう魔力を掴んで持っていた豪物に纏わせる。さっき使っていたような剣とは違い、今度はしっかりと耐えてくれていた。

 これなら何発でも打てるな。果たしてこの程度の攻撃が効くかは別の話だがな。


「二人纏めて来い」

「っ」


 舐められていると分かって少しだけカチンと来た。まだ俺たちの実力も測り切っていない癖に、既に勝てると確信してやがる。


「やってやるよ、お望み通りなぁ。後悔させてやらぁ」

「ふん、出来るならな」


 その言葉が紡ぎ終わる前にバネのように飛び出したメイカは、即座に奴の首目掛けて剣を振るが、


「っ!」

「人の話は最後まで聞かぬか」


 易々と防がれてしまう。その一瞬の硬直で既に奴は彼女に拳を振りぬいていた。


「ごふっ……!?」


 肺の空気が全て抜けたような声と共に部屋の奥に飛ばされた。だが壁に当たるすんでのところで態勢を何とか直して地面に転がる。

 奴は更に彼女に追撃しようとしたところで─────初めて俺の存在に気づいた。


「いつの間に」

「はあっ!」

「素晴らしい!」


 ニヤリと笑い、さっきと違い今度はしっかりと俺の攻撃を受け止めた。ジリジリと剣と剣がこすれる音が聞こえてくる。

 このおっさん、力が強すぎる……!このまま鍔迫り合いが続けば間違いなく先にへばるのは俺だ。


 だが俺が彼から離れる前にメイカが復活していて、


「はああああ!!!」

「っ」


 意識を失わんと思いっきり咆哮を上げた。

 彼女が発した気迫に、奴は一瞬だけ動揺した。その隙を俺とメイカが見逃すわけがなかった。

 俺は即座に奴の力の行く先をずらして受け流し、彼女は後ろから背中を斬ろうと走り出す。

 彼の剣先は地面に向いた。究極の二択を迫らせることができた。

 このまま俺は剣を振りぬけば─────


「カッ!!!」

「「っ!?」」


 だが全戦無敗の敵将はそんなことを許すわけがなかった。彼も彼女と同じように、されど短い咆哮を上げる。だがそこに空気の圧が含まれており、俺たちは無理矢理距離を取らされてしまった。


「ふん、中々に面白いではないか」

「……マジか、騎士ってこんなんばっかなのかよ」

「彼が特別強いだけよ」

「じゃあなんでこんなところにいるんだよ」


 俺たちが悪態をついていると、バラガルーザは顔を引き締めた。まるでこれからが本番だと言わんばかりに。

 彼の体から強烈な魔力の圧が放たれる。それが俺たちの体を縛り付け、動き辛くした。

 人が放つ殺気、威圧、それらの正体は感情の籠った魔力だ。圧が強ければ強い程、保有している魔力量は多い。

 そして彼のそれは、もう達人の域だ。


「……っ!」


 そして、奴は動き出す。それに気づいた時には既に俺の目の前まで来ていた。


「まずはお前からだ」

「やべっ!?」


 反射で下からの攻撃を防ぐが、体が宙に浮かび上がる。そんな俺に奴は横蹴りを放ち、俺を壁まで吹き飛ばしたのだった。



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