第19話
忘我団の本拠地の前までやってきた。今日起きることだってこの街ではいつもの闘争の内の一つとして片づけられて、人々の記憶からすぐに忘れ去られるのだろう。
どれほど大規模な集団だったとしても、ここはそう言うところなのだ。
名を広げたければ真っ当なことをすればいい。当たり前のことである。そんな当たり前ができない奴らが集まる場所がここなのだ。
「さ、景気付けに宣言だけするかね。もう俺たちの動向は向こうも知ってんだろうし」
そう言って組長は魔術師に拡声の魔術を頼んで、
『タブーの“た”の字も知らない幼稚園組集団の、醜いお遊びを止めるために大人の俺たちがやってきましたよー。さっさと出てこい餓鬼共が。纏めて潰してやるよ─────俺たちミヤビ組がな』
はー俺の役目はこれで終わり、なんて言いながら組長は後ろに下がっていく。その直後、
「「「「おおおおお!!!」」」」
「やってきたな」
「総員、殺し尽くせ!」
「「「「おおおおお!!!」」」」
忘我団のアジトから飛び出してきたならず者たちを迎え撃ち、遂にカチコミ闘争が始まった。俺たちの目標は忘我団の壊滅、つまり忘我団の当主をぶっ殺すことだ。
対して向こうはこれを機に俺たちを潰すつもりなんだろう。
俺は真っ先に駆け出し先頭の兵士をはたき落として足で頭を踏み潰す。これが闘争の狼煙代わりとなった。
そんな俺に近くの敵が、
「死ねっ!」
と叫びながら剣を振り下ろしてきた。
半歩下がって目の前で通過する剣を見ることなく俺は手首をつかんで肘に平を打ち込む。
「いっ!?」
ボキッ!と嫌な音を立てながらあらぬ方向に折れた腕に怯んでいる間に剣を拝借しそれで首を刎ねた。
更に後ろから迫って来ていたもう一人の敵の攻撃を避け、脇腹に剣を突き刺した。
「ぐふっ……」
「ふぅ」
一息ついた直後にまた新たな敵が。うじゃうじゃと湧きやがる。
このまま竜眼で一掃するか─────
「仮面!」
「っ、メイカか!」
「このまま突き進むぞ!」
「分かった!」
奥から敵の壁を切り裂きながらメイカがこっちまでやって来てくれた。俺はメイカの傍にいた敵を斬り殺し、メイカの横を走る。
「組長曰く、敵将は建物の中に引きこもってるらしい!私たちで叩き潰してこいと仰せだ!」
「面白い!」
と、その時だった。俺の竜眼が魔力の流れを映し出す─────奥から魔術の攻撃!
「火魔術だ!」
「避ける!」
避けた俺たちの真ん中を魔術が通り過ぎる。更に追加でさっきの魔術が飛んできているのが見えた。
剣が果たして持つのか……いや、これは使い捨ての剣だ、また別の奴から拝借すれば問題ないか。
竜眼で魔力の流れを見て、それを手で掴んで剣に巻き付けるように刀身全体に帯びさせる。
「おし!」
即席の魔剣の完成。ただし回数制限有のゴミだが。
「今はそれでも構わない!」
そう叫んで俺は迫って来ていた火魔術を立て続けに切り裂いて行き、魔術がただの魔力に変わる。周囲の魔力の濃度が上がったのを確認した俺はその魔力を掴んで更に剣に纏わせる。これ以上できないと剣が悲鳴をあげるがお構いなしにどんどん纏わせていく。
「これくらいで、行きやがれ!」
俺は一気に剣を振り下ろした。度外視で魔力を纏わせ過ぎたせいでその一振りで剣が粉々になったが、代わりに魔力の斬撃が火魔術を放っていた魔術師に直撃し、その一撃でもって奴は絶命した。
「借りまーす」
地面に転がっていた死体の腰にあった剣を拝借した俺はそのまま敵本拠地の中へと足を踏み入れる。隣には俺とは別の方法で切り抜けたメイカが。
「意外と強くなかったわね」
「脅威なのは兵士の数じゃなくてこっから来る奴らだろ」
「そうだったわね」
情報通りだった。忘我団の特徴の一つとして兵士の数が挙げられるが、一人ひとりの強さはそれほどでもない。
ここが何故一目置かれているのか、それは“数の暴力”と“質の暴力”が共存している点にある。
相反するこの二つだが、こと組織レベルにまで目を向ければ案外そんなことはよくある話だった。それがどれ程のものかは別として。
忘我団は年中傭兵として冒険者を勧誘していた。冒険者だけじゃない、市民や農民、果てはスラム街の奴らにだって“一緒に傭兵しない?”みたいな軽いノリで聞いて回っている。そうして集めた人数はこの街の人口の4割に及ぶ。これは一傭兵団が持っていい数じゃない。
初めは確かに傭兵団だったのかもしれない。だが強さと数を求め過ぎたがためにこうなってしまった。
これが数の暴力の要因となった理由。
じゃあ質の暴力は?それはこの傭兵団を作った人物が原因している。
バラガルーザ・ライズ。元領主直属の騎士だった者だ。彼はミヤビ組が発足し始めた20年以上前に騎士団を追放された。騎士団にいた時についていた異名は“無敵”。
騎士団といえば?と聞いたらみんな口をそろえて彼の名前を出す、それほどの有名人だったらしい。つまり、それほどの強さを持っているという事だ。
追放されてからかなりの年月が経っているがその強さは未だ衰えを知らないらしい。
彼一人で兵士の“質”を補っていた。
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