第16話
《第三者視点》
「……反吐が出る」
屋敷の一室で人知れずそう吐いた少年─────レイズはさっきまで聞いていた事柄全てに対し嫌悪感を抱いていた。
彼らの話はおよそ人がするような話じゃない。悪魔の密会のようだった。
そう結論付けつつも彼は頭の中でさっきの会合の内容を整理する。
もう少し。そう、もう少しなのだ。
この家に生まれたことが間違いだった。彼は物心ついた時から常にそう思いながら日々を過ごしてきた。特に忘れないのはあの日の事だろう。
実の父親に連れられて入った部屋の中には部屋中に赤い液体が飛び散っていた。その真ん中にはボロボロの状態で座っている殆ど息をしていない男の姿。
「これが、お前がすべきことだ」
そう言われた時の彼の心情と言えば計り知れない。様々な感情が入り乱れ、思わずその場で蹲って吐いてしまった。
そんな彼の姿を父は、
「若いなぁ」
とまるで懐かしむように笑っていた。その笑みを、彼は今でも夢に見る。
─────あれは悪魔が愉快だと思った時の笑みだ。愉悦を、あれで感じていたんだ。
─────僕の父親は、悪魔だ。悪魔に魂を売った悪魔だ。
彼の目に映る全てがその日から唾棄すべきものへと変わった。そして、屋敷にいる人たちに命の尊さについて説き始めた。それはきっと、彼なりのこの屋敷を変えたいと言う心の表れだったんだろう。
頑張った。頑張った。だが、笑うだけで聞こうともしなかった。
そうかそうかと聞くだけ聞いて、吐き捨てた。
そんなのを見るたびに彼の心はどんどん崩れていった。そして、彼は諦めた。
「……ここはもう駄目だ。これ以上いると、おかしくなる」
そうして彼は外に助けを求め始めた。この中は悪魔の、人外の巣窟だ。ならば、外にいる人たちに駆除してもらおう。この時点で彼は実の父親を含むミヤビ組全員を人と見なしていなかった。
殺すべき、悪へと変わっていたのだ。
そんなある日のことだった。
「こいつが、今日からお前のボディーガードを勤める者だ」
「よろしく」
彼のボディーガードとしてとある男がそばにつくようになった。きっと奴らと同じようにこいつも悪魔なんだろう、そう思っていた。
そして実際それは正しく、間違いだった。
「剣を握れ、坊ちゃん」
「……え?」
「何故か知らんが契約に剣術指南が追加されててな。本当に何故か知らんが。だからやるぞ」
「……」
「さっさと握れよ。黙ってんなら早く握れ。ぶつぞ」
組の教えを、彼の考え方を崩すべく目の前で人を殺したりもした。実際彼の考え方もミヤビ組寄りではあったしそう矯正しようともしてきた。だが、
「ふん、お前のその考え方がここで通用しないんなら別のとこ行けばいいじゃねぇの?俺はこことは関係ないから知らんが」
初めて自分のこの考え方を間違っていないと言ってくれた。そして、ここはもう無理だとも悟った。
「……」
血の繋がっている父親故に、肉親の情は持っている。だがそれ以上に、彼の本心が、イレギュラーともいえる正義の心が奴を粛清しろと、そう叫んでいる。
しかし一番の問題があった。
それは組長である彼は、ミヤビ組の中でも一番の強さを誇っていることだ。
メイカの強さ、そして仮面の強さを肌で感じ取っている彼は、その二人が揃えて“強い”と言った実の父親に恐怖を抱いていた。
彼らでもかなりの強さがあるはずなのに、それ以上だなんて……。
「……やはり、あの話を受けるべき、か」
そんな彼にとある人物から接触があった。その人物とはミヤビ組の壊滅を望んでおり、何より正義感に溢れていた……と彼は感じ取っていた。
その人物から持ち掛けられたのだ。
─────ミヤビ組を一緒に壊しませんか?
と。
もし仮にこれが成功すればレイズには十分な報償金と地位を約束すると言われている。明らかに怪しかった。だが、まだ子供と言える彼にとって、これ以上いい手は浮かび上がらなかった。
部屋の中で一人葛藤する。このままでいいのか、それとも─────
「……いや」
既に彼は決心していた。やはりどう足掻いてもあの光景に惹かれることは無い。自分が夢見るのは血の気の無い、ゆったりとした生活だ。恐怖を感じることなく、何かの圧に屈することなく、何も縛る者が無い。そんな生活を。
彼の目に迷いが消える。
「……目を盗んで、接触しよう」
彼は今日まで悩みに悩んだ。だが、先の会合で彼も決意した。
─────父親と、決別することを。
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