第15話
「おかえりなさい」
「ん?」
適当に街の様子を見終わって屋敷に戻ると、入り口にはメイカが立っていた。彼女は門番とかそう言うのじゃなかったはずなんだが。
「組長が呼んでたわよ。今までどこ行ってたの?」
「ちょっと街の方に」
「やめてよね、組に迷惑かけるの。あなたは一応組の中だと客人みたいな扱いだけど、あなたの噂一つがこの組の評価につながるんだから」
「善処する」
組長が俺を呼んでいるのなら丁度いい。俺も組長に話したかったことがあった。
メイカの後をついて行く形で組長のいる部屋に入った俺は、坊ちゃんをそばに座らせている組長の前に。
「おい、どこほっついてたんだお前」
「街の方」
「……ったく、お前はやんちゃ坊主か何かか?何も言わずにいなくなるなよ」
「すまん」
今後も何も言わずに出てくけどな。
なんて思ってると組長が俺を睨んできたので、適当に口笛でも吹いとけば彼は重い溜息を吐いた。
そろそろ本題に入ろう。
「そんで、俺に話ってなんだ?」
「あぁ、そうだった。文句を言う為にお前を呼んだわけじゃなかったんだった。おい」
「はっ」
組長に指示を受けた男が奥から一枚の紙を持ってきた。そこに書いてあったのは、
「……似顔絵?」
「明日からこいつのお守りじゃなくて、この絵の奴を探せ」
「……誰?こいつ」
その絵にあったのは明らかに幼い餓鬼の顔だった。見ただけでさぞかしやんごとない地位にいるんだろうなってことが分かるほど、その顔は整っていた。
「こいつはつい先日領主邸から連れ去られた第三王子だ」
「……」
……嫌なところで繋がってしまった。仮面の中でしかめっ面しているのを察したのか、組長が聞いてきた。
「……どうした」
「俺が酒場でなんか聞いたことがある話だなぁ……って思っただけだよ」
「……もう来やがったのか、領主の犬が」
「そうだねぇ。何もコーティングせずに真っ裸で」
「……紛れ込めねぇだろ。馬鹿か?」
「少なくとも飼い主は少し汚くすればいいだろくらいしか思ってないだろうな」
「……はぁ」
攫われたのが第三王子だったんならあの動きの速さは納得がいく。今頃あいつ相当焦ってんだろうなぁ。
そして、更に情報を集めないと最悪とばっちりで組が壊滅するなぁ。
「……情報を集めろ。チッ、最悪の話を持ち掛けてきやがって」
「ああ、依頼だったんだな」
「そうだ。依頼主もまぁ、それはそれはやんごとない人だったがこればっかりは手を引くほかないだろう」
「それが正しいな。俺でもそうする」
「やはりそうか」
「危ない橋はあんま渡る必要ないし」
取り敢えずミヤビ組全体の方針としてはこの件には無関心無関係を貫くことで決めた。組員が勝手に首をつっこんだらそいつの自己責任とすることも。
こういったトカゲのしっぽ切りは組織を保つ上でとても大事になってくる。
この屋敷に通ずる者は組の中でも数少ないからな。本拠地はまた別のところだ。ここはいわば隠れ家のようなもので、特に大事な事柄はいつもここで決めるんだと。
俺は坊ちゃんの護衛兼今では御意見番のような立ち位置も任されている。第三者の視点から意見が欲しいんだと。
こっちとしては迷惑極まりないんだが契約を塗り替えるなんて当たり前のこの世界だ。契約違反だなんだって言われたらこっちは立つ瀬がない。
渋々受け入れるしかなかった。
「さて、方針は決まった。第三王子なんか知ったこっちゃない。だが─────何も儲けが無いのは寂しいよなぁ」
と、組長は話を切り替えそんなことを言い出してきた。まぁ普通だったら第三王子なんて売ったら相当な額になる。その分それ相応のリスクが伴うが。
だがここにいる組織にとって何より大事なのは活動するための金だ。それを得るためだったら違法奴隷だったり違法薬物だったり何でも手を出す。
それで破滅しても自己責任だし、その屍の上にある権力は薄っぺらいもの。だがあればあるほどその権力は厚みが出始め、この組のようになる。
ミヤビ組は裏社会の中でもかなり上位に位置するほどの権力を誇っている。それは表の貴族社会においても、だ。
いくつもの貴族と繋がっているミヤビ組は、一目置かれている。
その権力をかさに立てて何かしでかそうとする組員はすぐに粛清されている辺りそこはしっかりとしているのだが。
だが─────
「取るべきもんは取る。ミヤビ組はどう動くべきか、今から話し合うぞ」
この決定が今後の運命を決定付けたなんて、ここにいる全員が想像できるわけがなかった。
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