第14話
「……済まないが、俺は協力できなさそうだ」
「そう言わないで、ちょっとだけ話を聞いてくれよ」
……チッ、この男を隣に座らせたのが運のツキだったか。彼はきっと俺からありもしない情報を抜き出さない限りここを離れず、俺を付きまとってくるだろう。
「……少しだけな」
「ありがとう」
はぁ、と俺がため息を吐くと彼も俺の心情を知ってか苦笑いを浮かべた。まぁいきなりそう聞かれて巻き込まれたら溜まったもんじゃないからな。
俺は渋々彼に目を向ける。仮面越しの俺の視線を感じ取った彼はそのまま話し始める。
「僕はねこの領の騎士なんだけど─────ああ、別に敬語とかに変えなくていいよ?できないでしょ?」
早速どでかい爆弾ぶちかましやがったぞ、こいつ。彼の言葉に耳を傾けていた奴ら全員が驚愕の目で彼を見る。
……身なりがいいからどっかの豪商かと思ってたが、それ以上だったか。鎧を着てなかったから気付かなかった。
「つい最近起きてるとある事件について知っているかい?」
「事件?」
ミヤビ組があるここは街のはずれに位置している。中央に行けば行くほど貴族が、そして領主が住む地域に近づくのだが、きっと彼はそこで起きた事件の事を言っているのだろう。マジでここに住む人にとっては関係のない話だ。
「ああごめん、そんなこと知るわけないよね」
「……そうだな」
分かりやすいくらいに馬鹿にしたような態度に少しだけカチンと来たが、上流階級の奴なんてみんなこんなのだろう。
そう思う事にして何とか気を落ち着かせる。
「話を戻すけど、その事件でね、行方不明になった人がいてね。情報だとどうやらこっちに連れ去られたんだって」
「へぇ。じゃあお前はその人を探してると」
「そうだよ。なんか最近変わった事とか、知らない人とか来なかった?」
「そうだなぁ」
なんて思い出すふりをしながら俺はこいつの対処をどうしようか考え始める。仮面をつけてるから俺が今どんな顔をしているかなんてこいつは知る由もないだろう。
……このことを組長に一応言っておく必要はあるとして。
彼の話は俺にとって知らないことばかりだった。騎士がこうして鎧も着ずにここに聞きに来ているという事から事の重大さとしてはかなりのものだが、あまり悟られなくないものだと思われる。
とすれば、攫われたのは領主の息子か、それともそれ以上の地位にいるやんごとなき御方か。少なくともこれで面倒ごとなのは確定した。
だから後は彼にあること無いこと喋ったらどうなるか……そう考えるときっとめんどくさいことになるな、これ。
さっさと離れるが吉、か。
「知らねぇなあ、そう言った話は俺は聞いたことが無い。店主はどうだ?」
「俺も、ここを長く構えてるが最近そんな話があったとかはなかったな」
「……そうかぁ。酒場は情報収集するにはとっておきの場所だって言われたから来たんだけど……はずれだったか」
「ほかの所を当たってくれ。少なくとも、俺の店は情報屋紛いのことは一切してねぇんだ」
店主がそう追い打ちをかけると、騎士サマはがっくりとうなだれた。
「……はぁ、他の店を探すとするか。御馳走様」
「はいよ」
彼はテーブルに銀貨を三枚ほど置いて店を出て行った。きっとこの後もその強権を振り回しつつ情報収集に勤しむんだろう。
俺は目を奴が出て行った出口から銀貨が置かれたテーブルに戻してそのうちの一枚を懐に入れた。
「おい」
「二枚でも十分だろ?きっとこのうちの一枚は俺に払われたもんだ」
「ふざけんな。この店の主は俺だぞ?逆らうのか?」
「……やってみろよ。暴力で俺を弾けるんだったな」
「……チッ」
渋々と言った形で店主は銀貨二枚を手に取りポケットに強引に入れた。実力も測れないような愚か者だったら俺の挑発にすぐに乗っただろうが、彼は違うようだった。
触らぬ神に祟りなし、ってやつだ。
しかし彼は代わりにこんなことを聞いてきた。
「……ンでお前、さっきの話どう思うよ」
「あ?」
「騎士サマの話だよ。本当にここまで連れ去られたのかねぇ」
「はた迷惑だよな、マジでめんどくさい」
「ここに犯人が逃げ込んだ、それだけで俺たち全員が容疑者呼ばわりだ」
はぁ、と揃ってため息を吐いた俺たち。こればっかりはどう頑張っても消えない問題だ。
そもそも、この街ができた経緯にはミヤビ組が絡んでいる。一時的とはいえ今は俺もミヤビ組の一員だ。
まぁあんまり知られてない感じだから今のところ問題ないけど。
「ごちそうさん」
「おう」
追加のビールとつまみを食い尽くした俺は金をテーブルに置き、店を出た。口の中はまずいビールの味が残っていて、今すぐにでも吐き出したかった。
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