第12話
「ご苦労。んで、俺の餓鬼はどうだ?」
「……重症。その一言に尽きるな」
「……そうか」
重苦しい空気が俺と組長の間に漂い始める。それも仕方ないことだった。坊ちゃんは次代の組長となることが今のところ決まっており、このまま甘ちゃんのままでい続けられると本当に困るのだ。
「……どうにかなると思うか?」
「今日の感じだと無理だろ。少なくとも俺をボディガードにしても何も変わらないと思うぞ。臓物みただけで吐いてたしな」
「……まぁ吐くことは百歩譲ろう。まだあいつは餓鬼だからな。だが思想に関しては看過できない」
「拷問の様子を見せるのはどうだ?」
「……見る前に気絶してしまう。何度もやってるが、どうもうまくいかない」
俺たちはそろってため息を吐いた。俺は雇われの身であるためこうしてため口で話すことが許可されている。だから俺たちは気軽にこうして同じリアクションを取れるのだ。
そんなことはどうでもいい。大事なのは坊ちゃんの将来だ。
「……いっそ表で暮らさせた方があいつの為かもしれないな」
「そしたら跡継ぎはどうするんだ」
「ふん、そんなもん、他所から取ってくるか今いるやつの腹に仕込むに決まってんだろ」
「……そうかよ」
やっぱ住む場所を少し変えるだけでこうも価値観ってのは変わるのか。ここでの子供一人の価値はどっかのゴミ一つと何ら変わらない。子供は使い捨ててなんぼの世界だ。
そんな世界のトップの内の一人である組長も例に漏れず自分の子供を道具にしか見ていなかった。
反吐が出るとか、そう言った感情は浮かび上がることは無かった。勝手にしろって思うだけ。
「……本当にそうした方がいい気がしてきたな」
「そんなすぐに跡継ぎってのは生まれんのかよ」
「あ?てめぇ何言ってやがる。今二人妊娠してるから問題ない」
「生まれた後育てるのにどれほどかかる」
「……チッ」
「坊ちゃんでもようやく13になったんだぞ。他にいねぇのか、跡継ぎになりうる餓鬼は。あ、取ってきた奴は論外な」
「……20になるのが一人。だが奴は……」
そう言って彼は口をつぐんだ。どうやらその男には問題があるらしい。詳しいことは聞かなかった。面倒ごとの匂いしかしないからだ。
「まぁいい。俺には関係ないからな」
「もうここに来て結構経つだろ。今更無関係ですなんて言えねぇからな」
「ふざけんな。何かあったら俺がすぐに逃げるからな」
「逃がすと思うか?お前ほどの戦力を」
「逆に捕まえてみろよ。お前ら程度の戦力で」
一触即発。俺と組長は凶悪な笑みを浮かべながら睨み合う。彼だって歳は取っているがこの地位に至るまで一体どれほどの修羅場を潜ってきたのか。その一端を感じ取れるほどの濃密な殺気が俺を襲う。
やっぱ強いな、今の俺ならどれくらいで殺せるだろうか。
「俺を前にしてどうやって殺そうか考えるのは精々お前だけだよ」
「敵の殺し方を考えるのは当たり前だろうが」
「これくらい強くなると他の奴らはビビッて逃げるんだよ」
「この程度で?」
「─────言うじゃねぇか、坊主」
更に出力を上げ、少しずつ互いの体から魔力が漏れ始めたその時だった。
「「っ!?」」
「そこまでです」
パン!と手を叩く音と共に漏れ出ていた魔力が霧散した。俺たちはそれを成した者がいる方に目を向ける。
「おいメイカ、貴様何横槍してやがる」
「ボス、止めてやったのにそれは無いでしょう」
「今いいとこだっただろうが」
「それでこの屋敷が壊れちゃあ、困るのはボスの方じゃないですか」
「むぅ……」
長い髪を携えた、傍目から見ても美人だと分かる少女─────メイカはその鋭い目を俺の方に向けると、
「仮面も仮面だよ。ボスをこれ以上煽らないで」
「煽ってない。組長が勝手に乗っただけだ」
「言うじゃねぇか坊主」
「ほらな?」
「ほらじゃない。ボスもそう安々と乗らないで」
「はっ」
メイカはこのミヤビ組の謂わば用心棒のような役割で、役割は少し似ているが雇われている俺とはまた違い彼女はこの組の正式な組員だった。
その実力は組内ナンバーツーとまで言われているほどで、今の組長といい勝負をするんだとか。
「ったく、二人とも、会う度に喧嘩腰で話さないでよ」
「話してなかったじゃねぇか。最初は」
「それは私がいなかった時だし、私が来た直前にはもう喧嘩してたじゃない」
「こいつの言う通りだぜメイカ」
「ボス」
「……悪かった」
「仮面も」
「……へいへい」
組を仕切っているのが実質彼女なので、ボスも彼女には頭が上がらない。
これがこの国の裏社会最強の─────今のミヤビ組の現状だった。
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