第9話

「─────……は?」


 俺たちは今目の前で起こった出来事に唖然とし、言葉を失い─────隙が出来てしまった。


「「『『ッッッ!?』』」」

「─────あばよ」

『っ!?』

「……チッ」


 それを狙っていたかのように、即座に近づいて来ていた冒険者の一人に今度はロウが襲われる。しかし、すんでのところで持ち直し避けることができていたが、足に大きな切傷が出来ていた。


「なんで……!?」

「おいおい、どういう事だよッッッ!?!?」


 昨日まで仲良くしていた冒険者仲間の男が俺たちに剣を向けてくる。そこに情から来る躊躇いなど無かった。

 昨日だって一緒に飲んだりしていたはずなのに……どういう事だ?


「おい……!なんで襲ってくるんだよ!?」

「はっ!知るかよクソルーキーが!」

「死ね!」

「っ……!」


 俺たちを襲ってくる冒険者の数は次々と増えていく。その奥にいたのは─────ギルドマスターだった。

 ……そう言う事かよ。あのクエストを受けた瞬間から俺たちは、


「……嵌められてたわけか」

「正っ、解!」

「……っ、全く嬉しくないな……!」


 しかし、どうしてもぬぐい切れない疑問が残っている。何で俺たちを襲っているのか、だ。その答えはギルドマスターがずっと俺を見ていることから何となくわかってしまった。

 

……恐らく奴は、俺の正体に気づいている。


そう考えれば突然襲ってきたことにも理由が付く。なんてったって、教会が俺の首に懸賞金をかけてるからな。

胸糞が悪くなる。せっかくここまでいい感じになっていたのに。


「ぐあっ……!?」

「はぁ……はぁ……まだ続くか」


 何人目だろう。もしかして町の外からきた冒険者もいるんじゃないかって思うほどの人数が俺たちに向かってくる。終わりが一切見えない戦いなんて、こんな形で経験したくなかった。


 そうして、最悪は更に続く。


「みんな、一旦ここは」

「─────……済まねぇな」

「っ!?」


 俺の言葉を遮るように、突然ワイズが俺の背中を斬りつけてきた。俺は前の冒険者に気を取られていたせいでワイズの接近に気づけないでいた。

 気が動転する。


 ─────信頼していた仲間が裏切った。


「ワイズっ!?何してるの!?」

「……ミミ、俺にこの選択をさせたのは、お前だぜ」

「なっ……!?何言って」


 あまりにも酷い責任転嫁にミミは言葉を失い次第に表情が険しくなっていくが、俺はそれどころではなかった。

 何とかワイズたちから距離を取った俺は回復魔術を使い背中の傷を癒そうとするが、


「……っ」


 回復魔術は得意じゃない。かなり酷い荒治療となってしまった。辛うじて動けるが、動くたびに痛みが伴ってしまう。こんなんで激しい動きをしたものなら回復魔術で塞いだはずの傷がまた開くだろう。


 しかしそれでも動こうとした時、


『貴様……!俺の家族を、斬ったな……!?』

「そうだな、ウルフ野郎」

『貴様だけは絶対に殺す……!』

『っ!?駄目っ!ロウ─────っ!』

「GAAAAAAA!!!」


 シルフの制止も聞かず魔物としての本性を露わにしたロウは、その目に怒りの炎を燃やしながらワイズに襲いかかる。

 仲間として一緒に戦ってきたからか、互いの癖を知り尽くしていた二人の戦いは平行線のまま続く─────そう思っていた。


 だが。


『っ!?き、ぃ……さま……っ!!!』

「お前に時間を取られるわけにはいかねぇんだ」


 その戦いは一瞬にして決着がついた。ワイズが見たことのない剣でロウの胴を一瞬で斬り伏せたのだ。その動きはタンクがおよそ出せる速度ではなく、きっとその剣の能力だという事は理解できた。

 ……それほどの剣、あいつはどこで手に入れたんだ?



「……あとはお前ともう一匹のウルフだけだ。観念しろ、邪竜に属する者─────邪竜の子よ」



「……」

「……え?」


 ワイズが俺にそう言い放つと、俺の傍まで下がっていたミミの目が俺に向き、見開いたのだった。


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