第8話

 次の日のワイズとミミとの空気は最悪と言っていい程にまで酷かった。ずっと気まずそうにしているのだ。

 気持ちは分からなくもないがこのまま続けていくと決めたんなら、それを次の日まで引きずらないで欲しい。


「一応今日出るとの予想だから、しっかりと罠を張らないと」

「そうだな」


 一端気持ちを切り替えてリーエルの指示の元、俺たちは次々と罠を張り続けた。構造は至ってシンプルでそこに乗ったら魔物の重みで下に設置した檻が魔物を捕らえると言うものだ。

 これは市販で売られているため誰でも使うことができるが、一般人が使うことなど無いだろう。俺たちみたいな冒険者ぐらいしか使わない。

 それを地面に紛れ込ませるようにして設置していく。こう言った地道な作業をするのは実は好きなんだが……。


「うへぇ」

「ちょ、ちょっと疲れた……」


 ワイズとミミはそのようではないようだ。リーエルは慣れているのか黙々と作業を続けている。

 この三人は偶々知り合ってからずっとパーティを組んでいるらしいが、まだ組んでから一年くらいしか経ってなかったらしい。それでもBランクまで行けているのは各々のスキルと連携力の高さから来るものだろうと思う。

 だったら組む前はどうだったんだろう。こう言った作業をする機会はパーティを組んでからもあったはずだ。それでもこんなにも差が出るとは。

 ……まさか。


「お前ら、まさかずっと細かい作業を全部リーエルに……?」

「「……」」


 ……その無言で察したよ。そしてこの二人がこの時点で戦力にならないことを同時に察し、俺は頭が痛くなった。



 こうして四苦八苦しながらも作業し続ける事4時間。


「こんなもんか?」

「粗方設置し終わったわね。後は明日かかっているか調べるだけよ。あ、そう言えばユウゴ」

「何だ?」

「保護の魔術、かけてくれた?」

「あぁ、それならもちろん」


 俺がそう返事するとリーエルがほっとしたように胸をなでおろした。


 保護の魔術とは、物の周囲に特別な空間を作り出し盗られるのを防ぐもので、今回は他の同業者に横取りされないために確保した魔物を守るために用いた。本来の使い方ではないが、こうでもしないと奪う冒険者から防ぐことができない。

 奪われたりでもしたら俺たちが大損するし。


「後するべきことは……」

『餌は設置したのか?』

「してるわよ」

『じゃあ他の魔物雑魚の駆除はどうなのかしら?』

「─────あ」


 さっきまで忘れていたんだろう、シルフに指摘されたリーエルは“やってしまった”と分かりやすく表情に出していた。

 最初の話では罠の設置と同時進行でここら一帯にいる別の魔物を出来るだけ駆除すると言う風に話し合っていたのだが……。


「……完全に忘れてたわ」

「……あーあ」

「何してんだよリーダー」

「……ほんとそれ」

「だったらあなたたち早く指摘してよね!?」


 それぞれが思い思いにリーダーに愚痴る。

 だが今問答している暇なんかない。俺たちは急いで辺りの魔物を狩りつくした。幸いにもここ一帯に生息していた魔物の強さに関してはそれほどだったので早く片付いた。

 これで捕まえることができるだろう。俺たちは安心して野宿の場所に戻って次の日を待った。



 そうして交代しながら見張り番をすること数時間。朝食を食べ終わった俺たちは罠を仕掛けた場所へと向かうと。


「……半信半疑だったんだけど。成功するの」


 リーエルが信じられないとでも言いたげな表情の先にあったものは─────


「キュウ」

「……本当にいるよ」


 檻の中にいる目的の魔物だった。


*****


 その帰り道の事だった。先頭を歩くリーエルが何かに気づいたのか、指をさしている。


「……ん?」

「どうした、リーエル」

「ほら、あれ」


 一体何があるんだろう。そう思って見てみると、


「……一体どうしたんだ?」


 数多くの冒険者が町の入り口の前で集まっていたのだ。冒険者があのように集まるのは魔物大行進スタンピードが発生した時ぐらいだろう。

 しかしそれには発生する兆候があり、今日森の中でそれは無かったはずだ。間違いない。


 それだったらどうして─────


「殺れ!」


 誰かの叫ぶような声が聞こえた直後。




「─────え……?」




 目の前から閃光が駆けてきた。それがリーエルの元へと向かい─────脳天を突き破った。



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