第6話
「「「かんぱーい!」」」
「お、おーう……」
クエストを終えた俺たちはギルド内に設置されている居酒屋でクエスト完了の祝杯を挙げていた。祝杯……?なんか違う気がする。
とにかく、端的に言えば、酒だ、酒。
「これだよなぁ!やっぱさぁ!」
「美味しい!」
「……うぇ」
上からワイズ、リーエル、ミミの順でそれぞれ三者三様の反応を示す。俺はまだ歳が歳なのでなんとか誤魔化してジュールを飲んでいた。
だが冒険者ギルドに併設してある居酒屋なので、基本的に飲み物は酒しかなかった。今回は無理を言ったので今後は酒を飲まないとなぁ、なんて思ったりしている。
……だがそんなものはこのパーティに入ったらの話だが。
今日このパーティと一緒にクエストを受けてみて、なんと言うか、空気感が軽かった。それは悪い意味ではなく、適度に肩の力を抜いて仕事ができたって意味で。
正直、悪くなかった。
俺自身、ランクについてはあまり関心を持っていないからか彼らの必死さにはどこかついてこれてない部分もある。だけど、皆が頑張っているのを見て俺も頑張ろうって気になった。
と悩んでいると、
「おーう、ユウゴ!飲んでっかぁ!?何辛気臭い顔してんだぁ!?」
「……ワイズ、出来上がるの速すぎるだろうが」
「うっせぇ!今日は無礼講だぜぇ!?だったら飲まなきゃ損だろうが!?」
「……金欠になっても知らんぞ」
「がはははは!俺は金だけはあるからなぁ!問題ない!」
「……そうかよ─────お、リーエルがお前を呼んでるぞ」
「お!?そうなのか!?リーーーーエルーーーー!」
「く、来るな酔っぱらい!?ゆ、許さないぞユウゴおおおおお!!!」
酔っぱらいのダル絡みに遭いつつも何とか矛先をリーエルに移すことができた。後は彼女に任せるとして、さっきの話に戻ろう。
後は入るかどうかなんだが……俺には唯一にして最大の懸念点がある。それのせいで今俺はとても悩んでいるのだ。
「……」
『なんだ、迷ってるのか』
「ああ」
焼き魚の骨をボリボリと噛み砕きながらやってきたロウからそうズバリと思っていることを指摘され、俺は素直に頷く。
『今後の事と……あれか』
「そうだ」
何も言わず俺が抱えている悩みについて察してくれたロウは、成程と言わんばかりに頷く。本当に時々、ロウやシルフの事を果たして魔物なのか?と疑ってしまうほど一つ一つの動きが人間臭い。それがまたいいんだけど。
やはりあれだろうか。人の言葉を話すと人に似てくるのだろうか。
『まぁ入ったら出来る限り隠すこと優先だろうな』
「そうだよな。だがいつかは限界が来そうだが……」
『そうしたらパーティを抜ければいい。簡単な話だ』
バッサリと切り捨てたロウに俺は苦い表情を見せた。
確かにそれだったら簡単な話だが、人情とかいろんなものが絡むと結構めんどくさいぞ、それ。
っていう思いを込めてロウに問うてみる。
「……心苦しくないか?」
『知らん。魔物である俺には無縁の感情だ』
すると冷たい答えが返ってくるが、同時に納得もした。
確かにそれもそうか。彼らにとって出会いも別れも日常なのだ。今起きているこの状況─────俺と共に長く行動していること自体普通だったらあり得ない。
故にこそ、心苦しいなんてことはないのだ。
別れる辛さを知らないから。
「それもそうだな。お前らには関係ないか」
『だがな、お前と別れるのはちょっと辛く思うぞ』
「っ」
だが不意打ちでそんなこと言わないで欲しい。思わず心臓が跳ねるから。
羞恥心と言うのが無いのか?このウルフは。無いんだろうな。ウルフだから。
誰かにそういうのを言われたのは本当に久々だ。
『俺からのアドバイスは一つだけだ─────己の心に従え。俺たちはそれについて行く』
「……そうか、ありがとう」
そのロウの一言で俺の中に決心が生まれた。彼はきっと俺の背中を押してくれたんだろう。
俺がすっきりとした表情で礼を言うと、彼は満足そうな笑みを浮かべ、シルフの元へと戻って行った。
確かに今の内にこの先の事を考えても意味ないな。そう思うとさっきまで悩んでいたことがまるで馬鹿みたいに思えてくるから不思議なものだ。
少しの間だけ、この人たちと共に行動してみよう。あいつらみたいに俺を裏切らないことを願うばかりだ。
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