第4話

「もう一年以上経ってるのか」

『懐かしいな。主従契約を結んでもうそんなに経つのか』

『時の流れって残酷よね』


 とある町にある冒険者ギルドにて。


 仮面をつけて顔を隠している俺と、シルフ、ロウと名付けたウルフ二匹がそれぞれ、初めて出会ったあの日に思いを馳せた。

 あの後森を抜け出した俺たちは何とか町までたどり着きそこで一晩過ごすも途中で俺の目のことがバレてしまい、何とか町から逃げ延びると次に訪れた町で今着けている仮面を買った。

 それがこの“骸骨の仮面”で、それでもって冒険者となった。


「今の俺は“骸骨”の二つ名を持つれっきとした冒険者ってわけだ」

『不気味な二つ名だな』

『安直よね』

「確かにそうだな。もっと別の言い方は無かったのかね」


 冒険者とは町の外に生息する魔物を討伐したり、薬草を採ってきたりと、言ってしまえば危険な仕事を専門とする荒くれ者たちのことだ。

 と言っても実際荒くれている者の数は少なく、それが原因で評判を落としたりしたら……なんて思う者が多いのだ。


 もちろん俺もその一人で、地道なクエストばかりを受け、堅実に冒険者として活動した結果、見事冒険者の中では中間のBランクになることができた。

 このランクはソロではあまり辿り着く者は少ないらしい。だが俺にはシルフとロウがいる。この二匹のお陰で幾分かやりやすかった。


「まぁ、二つ名があるだけいいだろ」

『確かにそうね』

『俺たちにはないからな』

『あるわけないでしょう。ウルフなんだもの』

『それもそうか』


 そうやってギルドの中でゆっくりとしていると、俺たちに近づいてくる者がいた。

 かなり軽装だな。それに……女?俺たちに何の用だろう。いや、もしかしたら俺じゃなくて後ろの奴に用があるかもしれないな。

 ……無視しとこ。


「ねぇねぇ、お兄さん」

「……」

「ねぇってば。もう気付いてるんでしょ?」

『諦めろユウゴ。現実に戻ってこい』

「……はぁ」

「わお。ウルフが喋った」

『これくらい珍しくないだろうが』

「それもそっか。ってことはそちらのウルフさんも?」

『そうね。私も喋れるわよ』

「凄いね!」

「……」


 なんかそこだけで会話が弾んでいる。もう俺このまま無視し続けてもいい気がしてきた。

 なんて思ったせいからか、女がウルフに向けていた顔をいきなりグイッと俺の方に向けてきた。


「それでお兄さん」

「……いきなりで怖い」

「それはごめんなさい。それでお兄さん」

「……なんだ」

「─────私たちのパーティに入らない?」


*****


「こちら、私たち“グラスワンダー”のメンバーだ。私がこのパーティのリーダーの、リーエル。そんで」

「俺がワイズだ」

「私はミミよ。宜しく」


 リーダーのリーエル、タンクのワイズ、そしてヒーラーのミミの三人と握手した俺は三人を習って自己紹介をする。


「俺はユウゴ。んでこの二匹のウルフが」

『シルフよ』

『ロウだ』

「宜しく」


 さっき勧誘してもらってこうして紹介をしてもらっているが、まだ俺はここに入ると決めたわけじゃない。

 俺が一つ提案したのは一つクエストを一緒に受けてみて、その感触で入るか決める、というものだ。その提案をリーエルたちは快く受け入れてくれた。

 そして俺を勧誘した理由についてだが、


「単純に、このまま三人で続けてもAランクまで行けないだろうと思ったって言うのがある。それに」

「悲しい話、俺たちのパーティには後衛職がいなくてな。一応ミミが後衛なんだけど」

「私の専門は回復魔術だから……攻撃魔術はあまり得意じゃないの」

「成程。それで俺を」


 それだったら分かる話だった。

 今の俺の戦闘スタイルは場合によってコロコロ変わるが基本的にシルフとロウに前衛を任せて俺は後ろから援護したり、遊撃したりと言った戦法を取っているのだ。

 シルフとロウでは人の言葉は話せても魔術は使えない。対して俺には竜眼がある。


 魔術について軽く調べてみたらなんと驚くべきことに、空気中に漂っている魔力で十分魔術を使えるらしかった。

 俺の魔術は自分の体にある魔力と空気中にある魔力を混ぜて発動させている。その際仮面越しだが竜眼を使っているのだが、それのお陰で簡単に魔術が使えているのだ。


 普通だったら詠唱を必要としたり、しっかりとしたイメージをする必要があるが、俺の場合それは竜眼が補ってくれる。それに一度見た魔術なら再度使えると言うおまけつき。


 なので回復魔術も使えるっちゃ使えるのだ。


 彼らは今Bランクで燻っているとのことで、そろそろAランクに行くための足掛かりが欲しいとのこと。

 ……正直俺としてはこの目の事があるからあまり彼らを信じたくないんだが。


 最悪これっきりにすればいいか。そう思えば少しだけ重くなっていた気分も軽くなった。


「それじゃあ行こう」


 リーエルの掛け声で町を出る。この時の俺は何故か無性にワクワクしていたのはなんでだろう。



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