第5話 蝶の信頼

「これよりこれより蝶の盾継承試験 公開決闘を始める!」

セレナの声が響く。

すぐにルフスが鞘から剣を引き抜き、構える。

だが、両方ともすぐには動かない。

焔もゆったりとエンジン剣を引き抜く。

ルフスは甲冑ということもあり、どっしりと構えているが、焔はエンジン剣を下ろし、ゆったりと構えている。


ルフスは目をカッ!と見開き、焔の方へと詰め寄る。

刀身が白く、大きな剣による斬撃を放つ。

しかし、焔は最小限の動きで、避ける。

「きゃ!ギリギリだよぉ。」

セラは焔のことをひやひやしながら見ている。


「ふむ、これはいい。」

焔は一言つぶやく。

今までは着物だったから、大げさに避けてきたが、上着が体のラインまで着物を圧縮している。これなら、最小限の動きでよけれる。

それに…

「まだまだ!」

ルフスは負けじと剣撃を連続で放つ。それもすべて焔はよける。

ルフスのヤツ、ただやみくもに斬ってくるのではなく。私の避ける方向を予測して斬ってきている。自分の鎧の可動範囲も考えての動き方だ。腕を上げたな。


その後もルフスは、攻撃を加え続ける。

焔が避けた先が自分の間合いなら、退き様子を見ながら攻撃を与え続ける。

「ねぇ、女王様。」

セラがセレナに尋ねる。

「ん?どうした?」

「なんで焔お姉ちゃんは攻撃しないの?」

「焔はルフスの今の実力を見ているんだ。蝶の盾は我が軍の最高決定権を持つ。それゆえにルフスがそれに値するかどうか見ているのさ。」

「そうなんだ!でも、どんな人が蝶の盾にふさわしいの?」

「攻撃力、判断力、指揮能力。そのほかにもいろんなことに長けているもの。加えて良心があり、絶対的な忠義があるかどうか。だが、判断基準はそれぞれだ。ルフスは焔の代わりに軍の長として動くことが多かった。焔はその成長度合いを確かめているのだろうな。」


「なかなかやるようになったみたいだね、ルフス。だが、ここからは私のターンだ。」

そういうとエンジン剣でルフスの突きをいなした。

「神威式型エンジン剣」

ルフスの重心は若干ズレた。

焔はエンジン剣をルフスの剣の刃先に沿わせて、首まで一直線に進ませる。

甲冑にぶつかるとエンジン剣を振り上げた。

刃先が兜に引っ掛かり、兜が脱げてしまった。

背後に回った焔は、構えなおす。すると刀身から火が噴き出す。


ルフスは仰向けに倒れていた。その頭を狙ってエンジン剣を振り下ろす。

セラは思わず目を瞑り、手で顔を覆う。

しかし、音は何もせず静寂が訪れる。

セラが目を開けると、ルフスの顔面すれすれでエンジン剣は止まっていた。

その身に宿っていたはずの炎も消えていた。

ルフスは目を開いたまま、焔もエンジン剣を握ったまま固まっていた。

「そこまで!」

セレナが号令をかけると、周りのオーディエンスからは歓声が上がった。


焔はエンジン剣をしまう。

ルフスは兜を回収し、一息つく。

「いやぁ、見事だった。」

セレナは焔たちのもとに拍手をしながら近づく。

「負けてしまいましたね。」

「何を言うルフス、私は焔に勝てとは言ってないぞ。それで、焔?」

焔は腰に手を添えた。

「んーそうだねぇ。攻撃も悪くなかったし、判断力も相当なものだった。なにより、最後の攻撃を目を瞑らずにしっかり見ていた。合格だと思うよ、私は。」

焔はルフスに握手を促した。

「おめでとう。今日から君が蝶の盾だ。」

「ありがとうございます!」


王座に戻った一行の前で、改めてセレナが口を開く。

「さて、焔よ。いま一度確認するが…本当に言ってしまうのか?」

セレナの顔つきが変わる。その目には悲しみと覚悟が映っていた。

「ここから先は茨の道になるぞ」

「私なら大丈夫だよ。それに敵を討てるのは私しかいないからね。」

「確かに、生き残りは君だけだ。」

しばらくの静寂が流れる

その重い空気は幼い世良でも理解することができた。

(焔おねぇちゃんはすごく重い何かを背負っている)


「だが、別れは笑顔で見送ろう。」

セレナが手を叩くと側近がリュックを持ってくる。

「中に食べ物やら旅に必要なものやら入っている。ぜひ有効に使ってくれ」

「ありがとう。女王様。」

「あと、頼みが一つ。あの村の方向に行くなら、ジャム国につくはずだ。そこで、謎の魔獣が表れた。私がジャム国に通達を出しておくから。魔獣の討伐を我が兵と共に討伐してくれ。」

「承知しました。任せて。」

焔はセレナに背を向ける。

「セラ、いくよ。」

「うん。ばいばい、女王様。」

「焔を頼んだぞ、セラちゃん。」


「また会おう。セレナ」

焔は顔だけ少し振り向いて、伝える。

また帰ってくると。

「いってらしゃい、焔」


セレナは流れそうな涙を抑えて、めいいっぱいの笑顔で焔を見送った。



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