第4話 蝶の盾

「私こそがエンスタ王国女王!セレナ・ザ・エンスタである!」

女王は右腕を広げ、左手を腰に当てるという、女王というより、将軍のようなポーズをとっていた。

「ほら、セラ、あいさつあいさつ」

「あ、初めまして。セラです。セラ・シールドです。」

「よろしく。」


セレナ・ザ・エンスタ 

エンスタ王国女王。金髪の髪を下ろして、蝶の形の王冠をしている。

女王と言えばおしとやかという印象が多いが、このセレナは違う。

活発で明るく、お世辞を嫌う。そのため、家臣には本音で話すことを推奨しており、身分関係なく話を聞き、意見を取り入れる。さらに、強いうえに仕事の速さと制度は世界一と言われるほどだ。

そのため、身にまとう赤のドレスもズボンタイプで、彼女から見て右側の腰にどれづのスカートのようなひらひらがついているという何とも珍しいドレスを纏っている。

そして声が大きい。


私がティア村に来た時からの付き合いで、姉のような存在でもある。

「待っていたぞ、焔。お疲れ様だ。それにセラちゃんも。」

「いったい私に何の用です?軍隊の移行手続きなら済ましたはずですが」

「そういうな、私はただ祝いたいだけなのだ。焔は私にとって特別な存在だからな。」

彼女はそういうと、一度息を整えた。

「誕生日おめでとう。遅れてしまったがな。どうしても伝えたかったのだ。」

セレナがそう言うと、周りの家臣や騎士たちから拍手と歓声が飛んできた。


皆が口々に祝いの言葉を言うため大合唱のようになっているが、セレナが手を叩くと皆が静かになった。

「お前には、この国は大いに世話になった。森羅シリーズの武器の使い手として、我が騎士団に協力してくれた。さらにその冷静な頭で軍の中で、最も力が強く、軍の最高司令の称号(蝶の盾)を継承し、大いにこの国に貢献してくれた。本当に感謝している。」

「焔お姉ちゃんってとってもすごいんだね!」

「最強の称号と言っても、あんまり軍には顔を出してないけどね。他に信頼できる人に任せてたんだよ。」


私が謙遜すると、私の近くで立っていた騎士団で私の次に偉い騎士団長ルフスが前に出る。

「そうは言いますが、騎士団にとってあなたはなくてはならない存在でした。無用な争いは避け、国に利益をもたらし、戦いには見事な腕を披露していただきました。」

セレナがうなずく

「その通りだ。だからこそ、焔が旅立つというのはなかなか悲しいことなのだ。」


私は少しニヤリとする。

「そんなこと言って、本当は私という戦力がいなくなるのが惜しいのでしょう?」

「女王だからな。もちろんそういう事も考えてはいる。しかし、お前は私の妹分だ。純粋に寂しいのだよ。だが、焔にとってこの旅立ちは大きな意味合いがあるもの。盛大に見送らなければなるまい。」

セレナは玉座の隣に立っている男性に話しかける。

「焔へのプレゼントは持っているか?」

「すでにここに」

セレナは男性から、包みをもらう。

「完璧だ。」


セレナが私に向き直る。

そして、立ち上がり、私のもとにゆっくりと歩きだす。

「受け取ってくれるか?これはお前の森羅シリーズの武器に相性のいい特別な衣服だ。炎による使い手への負担を減らすとともに、耐熱性にも長けている。」

私はセレナから包みをもらった。

「開けても?」

「もちろん。」


中身は一見黒色のただのライダーズジャケットのような革の上着だった。

そして、私はこれを身に着ける。

「ああ、よく似合っている。」

「ああ、動きやすい。これなら、着物が燃えずに済みそうだ。ありがとう。」


「女王陛下!よろしいでしょうか!」

「なんだ。」

声を上げたのはルフスだった。

「焔殿はこれから、旅に出てしまう。しかし、それは蝶の盾が不在になって、軍の統率力に乱れが生じます。そのため、蝶の盾の継承試験を行っていただけないでしょうか!」

「確かに一理あるな。」


「ねぇ、お姉ちゃん。蝶の盾の継承って?」

「要は、軍のリーダーにしてほしいってこと。」

セレナは私に問いかける。

「焔はどう思う?蝶の盾は我が国の軍の者ならだれでも夢見る称号だ。みすみす明け渡すか?」

セレナは少しニヤニヤしている。対してルフスは緊張しているようだ。


「いいんじゃないですか?軍の最高司令って言っても、私は戦いにしか参加してないし、あとは全部ルフスに任せていたし、彼も十分成長している。任せて問題ないと思うよ。」

ルフスは少し緊張が和らいだようだ。

「では、こうしよう。ルフス!焔と決闘をして焔から合格をもらえ。焔がその実力を認めれば、蝶の盾を継承しよう。ただし、焔は森羅シリーズで戦え。それでよいか?」


「ええ、問題ない。」「ありがとうございます!」

「では、皆、騎士団の訓練所に集合だ。騎士団のこれからが決まる偉大なシーンを目撃できるぞ。それに、焔の美しい戦いの姿を見られるのは最後かもしれんぞ。」


その号令と同時に家臣や騎士団は、訓練所に向かった。

私はセラをセレナに預けて、準備を整えるために、ルフスと武器庫に向かった。

その間にどうやらセラは彼女に聞きたいことがあるらしい?

「あの、女王様。お聞きしたいことが。」

「なんだ?何でも言ってみろ。」

「森羅シリーズって何ですか?」

セレナは少し驚いた顔をする。

「なんだ。焔から聞いていないのか。いいだろう、歩きながら話すとしよう。」


「森羅シリーズとは、武器の種類の名前だ。この世界には不思議な力を持った武器が存在する。それは他のダメージを与えるための武器とは全くの別物だ。そんなとんでもない武器のことをシリーズ武器と呼んでいる。」

「お姉ちゃんの武器がそうなの?」

「その通り。シリーズ武器には、種類がある。生物の力を持つもの。呪いを振りまくもの。災害級の魔物の力を封じ込めたものなど。私の王冠もそのシリーズ武器の一つだ。」

「それが武器なの?」

「そうだとも。その名も王の証シリーズ。これは、世界に存在する最も力がある王たちが、継承してきたもの。持っているものは確かに継承された、力のある王たちだ。そして、王の証シリーズの特徴は虫の力を王たちが扱えるようになる。」


セレナは王冠を外し、セレナに見せてあげる。

「セレナ女王様はすごい大様なんだね!」

「ああ。そうだとも。だが、あまり使うことはないがな。」

セレナは、王冠を再び身に着ける。


「森羅シリーズは、この世界にあるシリーズ武器の中で一番強いシリーズ武器だ。神が制作した武器だ。その力は確かに強大だ。それゆえに使うには条件がある。」

「条件?」

「前も持ち主から継承されていること。でないと武器が主を認めず、その力に飲み込まれ、食い荒らされてしまう。例えば、エンジン剣なら、握っただけで体が炎に包まれ、一瞬で塵となる。」

「じゃあお姉ちゃんは、継承されているんだ!すごいんだね!」

セレナは一瞬眉間に少ししわを寄せた。

「…そうだな。」


「さらに継承されるだけではだめだ。武器には意思がある。そして、森羅シリーズは持ち主と同じ実力しか力を使えない。ムリに使おうとすると、これも力に飲み込まれる。つまり、森羅シリーズを使うには、持ち主が強くないとただの鉄くずと同じだということだ。」

「つまりどうゆうこと?」

セレナはセラににっかり笑って答える。

「焔自身がとっても強いとゆう事さ。焔自身が強くなればなるほど、エンジン剣の本来の強さを扱えるようになり、焔に答えてくれる。ほら、見てごらん。」


女王とセラはいつの間にか訓練所についていた。

そして、訓練所の真ん中には、フル装備の重い甲冑を纏ったルフスと、いつも通り落ち着いた様子の焔が向かい合っていた。

セレナが声を上げる。

「これより蝶の盾継承試験 公開決闘を始める!」

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