4.身辺捜査

 田崎の死は自殺か他殺か、はたまた陰法師の仕業か。

 それを探るため、僕と木下さんのコンビは被害者である田崎の友人を訪ねた。船橋フナバシと名乗った彼は田崎の同期で、一緒に飲みに行く程度には親しい仲だったと言う。

「アイツ、結構図太いから自殺するような奴じゃないけど……ああでも、一ヶ月くらい前からかな。ストーカーに悩んでるってのは聞きました」

「ストーカー、ですか」

 あまり穏やかな話ではない。船橋は頷いて話を続ける。

「ここ最近、毎日のように留守電に変な音が録音されてるってすげえビビってたんですよ。まあ、アイツも少しナーバスになってたんじゃないですかね。その変な留守電が始まったのと同じくらいの時期に、恋人が亡くなってるから」

「恋人が……?」

 木下さんが首を傾げる。僕も妙に思った。一度立ち寄った田崎の部屋には、例えば写真だとか女物の日用品といった、恋人がいたような痕跡はなかったためだを失った恋人の形跡をすぐに片づけるなんてことがあるのだろうか。あるとすれば、恋人への想いを早々に断ち切ったか、或いは既に情を抱いていなかったかのどちらかだ。

「その恋人が何故亡くなったか、聞いていますか?」

 頷いた船橋は、彼の知る限りの事情を話してくれた。

「彼女、同じ会社の事務で働いてた子なんすけど、深夜にホームから転落して電車に轢かれたらしいっす。結構べろべろに酔っ払ってたみたいなんで、不幸な事故だろうって言ってました」

「そうですか……」

 痛ましい事故に言葉が詰まる。

「アイツ、昔から結構モテてたみたいで。女も取っ替え引っ替えでだいぶ遊んでたらしいんですよ。彼女が死んでフリーになったから変な奴に付き纏われたとか、そんな感じじゃないっすかね」

 船橋はそう結論づけた。


 ◇ ◇ ◇


 その後も僕らは田崎の親しい知人を何人か訪ねたが、得られた証言は船橋のものとさして変わらなかった。けれど、田崎遼吾という人物像は鮮明に浮かび上がってきた。

 女遊びが激しく、男女問わず敵を作りやすい性格であったこと。恋人がいながら同じ部署の後輩の高橋タカハシという女とも関係を持っていたこと。恋人の死後、奇妙な留守電に悩まされていたこと――

 田崎を苦しめた留守電というのは、べとべとさんのことだろう。確かに、一ヶ月も不気味な音を聞かせ続けられたら気がおかしくなりそうだ。

 僕と木下さんは田崎の浮気相手である高橋を訪ねたが、高橋は自宅マンションのドアを固く閉ざして警察の介入を拒んできた。

「私は何も知りません。早く帰ってください」

 とりつく島もない。任意の事情聴取かつ令状も取っていないため、大人しく引き下がることにした。

「高橋さん、何か畏れてるみたいでしたね」

 高橋の態度について、木下さんが零す。

「何かって……例えば、田崎との関係が露見して彼の死に関与していると疑われることとか?」

 既に高橋が田崎の浮気相手であることは割れているし、あの態度では疑ってくれと言っているようなものだ。逆効果ではないか。

「もしかして、高橋さんが何か知っていて怖がっているのは、田崎さんの亡くなった恋人のことじゃないですか?」

 何か後ろめたいことがあるのだろうか。

「成程……次はそっちから探ってみようか」

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