3.新生〈特殊怪奇捜査班〉
我らが新生〈特殊怪奇捜査班〉に来客があった。
「ヤッホー御子柴ちゃん、元気?」
所轄時代、何度も世話になった神崎先輩はへらりと笑う。神崎先輩は僕より三年ほど先輩の警察官で、胡散臭い関西弁を話すものの歴とした東京人だ。
「はい、おかげさまで。神崎先輩もお変わりないようですね」
「まー、警部のお守りはめんどいけどな」
「御子柴さん、お知り合いですか?」
後輩の
「所轄時代の先輩なんだ」
「ほんでカワイ子ちゃんまで増えとるやん。大丈夫か、カゲリに虐められとらんか?」
「大丈夫ですよ。誤解されやすいけど、悪い人じゃないんで」
神崎先輩に絡まれた木下さんは苦笑する。
「そうか? ならええけど。それにしてもビックリやわ。まさかカゲリが
「御託はいいから、用件は?」
霧雨篠の後を継ぎ特怪を復活させた、カゲリこと
「久々に会うたんやし、積もる話でもさせてや。まあええわ。
特怪向きの事件――
陰法師とは、人間の負の感情エネルギー、すなわち陰気から生じた怪異のことだ。それらは鬼や妖怪とも呼ばれ、人々の間で古くから語り継がれてきた。〈特殊怪奇捜査班〉は陰法師による犯罪を解決するために設立された部署だ。
神崎先輩はつい先日起きた転落死事件について簡潔に説明してくれた。その上で、核心を切り出す。
「被害者のスマホの留守録に、妙な音声が残されとってな」
「妙な音声、ですか」
「そ。ノイズの中、土砂降りの雨に降られてずぶ濡れになった奴がびちゃびちゃのまま歩いてるみたいな音が、すぐ側まで近づいてきてん。一言も喋られへんまま録音も終わっとったし。なんやえらい不気味やろ? 池田警部なんか真っ青になってたわ」
警部の痴態をヘラヘラ笑いながら暴露する神崎先輩。ここは池田警部のためにも聞かなかったことにしよう。
「おかしな点はそれだけやない。スマホの履歴を調べたところ、留守電は一ヶ月前から毎日同じ時間帯にかかってきとった。最初は音も遠くて微かにしか聞こえなかったんやけど、どんどん音が大きくなって近づいててな。最後にはさっきも言った通り、すぐ背後まで近づいとった。どや? いかにも
確かに気味の悪い話だ。話を聞き終え、思案顔の霞は顎をつまんだ。
「電話をかけて背後まで迫ってくるならメリーさんだが……音が追ってくる、って点ではべとべとさんに近いな」
「べとべとさん?」
ゲームの中に、そんな名前のモンスターがいたような。
「べとべとさんっつーのは、夜道を歩いてる時に足音と共に背後から迫ってくる妖怪――つまりは陰法師だ。香川や静岡など様々な地域で語られているが、追ってくるだけで実害はない点、『べとべとさん、お越しください』と唱えると足音が消える点は共通している。かの妖怪漫画家、水木しげる御大も戦中にこの妖怪に会ったと描き残しているな」
「じゃあ
木下さんが首を傾げる。霞とは高校の同級生であり、霞が上司と部下の関係を望んでいないことから二人は当時のまま呼び合うことにしているらしい。霞は僕には厳しいが、木下さんに対してはどこか甘い気がする。
「いや、べとべとさんが人を襲うなんて話聞いたことがない。べとべとさんに近しい陰法師か、或いは単なる嫌がらせってとこだな」
霞はそう結論づけた。怪現象を伴う事件が発生した際、類似する霊的現象と紐付けて捜査を行う。先代の頃からの特殊怪奇捜査班のやり方だ。
「それなら、僕は被害者の近辺を洗ってみます。もし嫌がらせであれば、何かトラブルを抱えていたかも」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます