#004.輸送屋さんのお仕事
扉を超えた先は小さな教会だった。天窓から柔らかな日光が差し込み、壁一面に格子の影を落としている。三人掛けの椅子は五列ほどあり、最前列に一人、そしてその通路の真ん中に一人、渚のことを気にかける素振りもなく前方を向いている。通路にいる真っ白なスーツを着込んだ男は手を前で組み、祈りをささげているようだ。この二人が
「お、来た来た。よう、アンタ月城か?」
「ああ」
「おいサム!いつまで祈ってんだ客だぞ!」
「......」サムと呼ばれた男は最後に胸の前で十字を切ってから黙って振り向き、手を差し出した。
「コイツはサム。無口だが使える...良いヤツだ。そんでアタシはメリッサ。アンタの契約者だ」
サムの手を強く握り返し、メリッサの言葉を反芻する。
「契約者?」
「なんだ聞いてねェのか...まァいいや、そのうち分かる。おいサム、何ボケっと突っ立ってんだ、仕事しろ」
「......」サムは徐にジャケットに手を入れ、何かを取り出した。
「ライター?」
メリッサはいつの間にか渚の横に立ち、サムの動向を伺っている。サムは続いて形の不細工な煙草のようなものを取り出し、ライターで火をつけた。
「月城、下の名は?」
「渚」
「よっしゃ渚ァ、しっかりつかまってろよ...」
サムが煙草を口に咥え、大きく吸い込んだ。煙草の先端が空気をたらふく取り込み、赤く光る。サムは数秒吸い続け、やっと止まったと思った途端に、その全てを渚たちに吹き付けた。
「うわっ、ごほっ」
一瞬にして目の前が灰色の煙に占領され、たちまち上下左右の間隔が失われた。
「じゃァな、サム!元気でなァ!」
染みる目を辛うじて開くと、親指を立てたサムが微笑んでいた。その映像は瞬く間に煙に隠され、再び目を閉じた。
「オイ渚、もう大丈夫だぜ。目、開けてみろ」
目を開けると薄暗い小屋のような場所にいた。
「ここは...?」
「準備室ってトコかな。にしても渚、アンタやるじゃねェか。初対面であのサムの
「ありがとう...?それよりメリッサは何者なんだ?契約者ってことは僕を守ってくれるのか?」
「いいか渚。アタシは説明が面倒なコトは話したくねェ。だから契約者って言葉は一旦忘れてくれ。だが、アタシが何者なのか、それを知る権利はアンタだけにある....アタシが...」
メリッサは透き通るような緋色の瞳で渚を見つめる。渚は自分の心が見透かされているような落ち着かない気分になり、そっと目線を外す。
「悪魔だってことは」
「...あぇ?」
夜に唄えば 水曜 あめ @no_name_1224
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